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俗物水滸伝  作者: 孔明
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第21話  呉用、勧誘する

 晁蓋と劉唐は早速呉用の屋敷へ向かった。

 呉用は晴耕雨読の日々で、近隣の子供に文字を教える私塾を開いている。晁蓋たちが呉用の家につくと、丁度授業が終わったところのようで子供たちが呉用に挨拶をしているところだった。

 子供たちがいなくなるのを見計らって晁蓋が呉用に話しかける。


「呉用」


「これはこれは晁蓋殿」


 呉用は三十過ぎ。もう結婚して子供がいるのが普通の年齢であるが、未だに妻はもたず独身。整えられた顎鬚に皺一つない服を纏った書生風の人物だった。

 しかし鎖分銅を使わせれば軽く大の男を倒してしまうほどの腕前で、時には博打も打つ諧謔を解した男だった。


「それにそちらは」


「俺は劉唐だ。晁蓋殿の……甥、かな?」


「だから甥はやめよと言っておるだろう」


 茶化す劉唐を嗜める晁蓋。その様子に呉用は晁蓋がただ遊びに来たわけではないことを悟る。


「大事な用件ですか?」


「察しがいいな、そうだ。できたら俺とお前、そしてここにいる劉唐と三人っきりで話したい。よいか?」


「ええ、どうぞ。使用人もいない独身男の屋敷です。まさか聞き耳をたてるような物好きもいないでしょう」


 呉用の家に通された晁蓋は、生辰綱のこととそれを強奪しようと計画していることを打ち明ける。

 劉唐には言っていないが晁蓋はもし呉用が断れば、計画は諦めようと決めていた。国に一杯食わせてやりたい気持ちはあるが、かといって無駄死には御免である。それだけ晁蓋は呉用という男の知恵を買っていた。


「他ならぬ晁蓋殿の頼みであれば断ることはできませんね」


 だが晁蓋の心配は無用であった。事情を説明すると、呉用はあっさりと首を縦に振ったのだ。


「三回は通わねえと仲間にならねえと思ったら、一発了承とは幸先がいいぜ」


「私もいい加減、世の余りの乱れように、世捨て人を気取っているのも嫌になってきたんでね」


 劉唐に呉用はにやりと笑って応じる。


「では早速だが呉用、生辰綱10万貫、どのようにしていただく?」


「晁蓋殿が睨んだ通り10万貫の移送となると、精鋭を任につかせるでしょう。これを少数で破って強奪するのは厳しいし、かといって破れるだけの数を揃えたら今度は前準備の段階で事が露見しかねない。ならばここは信頼の置ける少数で、策をもって強奪するのがいいだろう」


「その策っていうのは?」


「その前に少数精鋭と言ったが私と晁蓋殿と君の三人だけではまだ足りない。もう三人……信頼の置ける者達を仲間に引き入れたいと思う」


「三人か。倍に増えるのかよ」


 呉用の提案に劉唐は不満そうだった。人数が増えれば分け前が減ってしまうからだろう。

 けれど分け前を増やすために人員をケチって失敗してしまったら元も子もない。呉用が少し説得すると劉唐も渋々と頷いた。


「それで呉用。その信頼のおける三人とは誰なのだ?」


「石碣村で漁師をしている阮三兄弟です。この三兄弟は義理堅く腕っぷしのある好漢で、不義の金を強奪するためであれば喜んで協力してくれるでしょう」


「よし。では呉用、その三人の説得は任せたぞ」


「はい、必ず説得してきますよ」


 呉用がまず向かったのは阮兄弟の次男坊である阮小五のところだった。

 阮三兄弟の中で一番傍若無人なのが阮小五で、短命二郎と渾名されるほど周囲からは恐れられている。

 補足すれば短命二郎というのは『早死にしそうな次男坊』という意味ではなく『自分に関わったものの寿命を縮めてしまう次男坊』という意味だ。


(この時間なら阮小五は漁師の仕事をさぼって、質屋か博打に行っているところか。確かこの前、母の簪を無断で質に出して、阮小二にぶん殴られていたから……)


 博打だろうと呉用は当たりを付けた。阮小五なら真面目に働いて金を返そうとするより、博打で一発当てて返そうと考えるはずである。

 呉用の予想は当たった。呉用が賭場へ向かうと、機嫌よさげに出てくる阮小五がいたのだ。どうやら今回は勝ったらしい。


「やあ阮小五」


「ほう。数多の智慧持つ者よ。お前が天罪の宿業を背負いし、この阮小五に会いにくるとは珍しい」


「その様子だと今日は大勝ちしたようだね」


「フハハハハハハハハ! 我が封印されし邪眼イビル・アイをもってすれば、敵の心中を読み解くも自在よ!

 これで悪魔との契約により捧げし、我が創造主の秘宝を取り戻すことも叶う」


「……賭け事もいいが、本業もしっかりとね」


「ふっ。糧を得るための使命であればすこぶる順調だ。ここ最近は梁山泊という魔星の楽園エデンに住まう者達が睨みをきかせて、役人共が近寄らんからな。クハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 阮小五は相変わらず、遥か西方の言語を交えたよくわからない言動をする。本人はこれがかっこいいと思っているのだろう。

 常人には解読不能な言語であるが、阮小五と長く付き合いのある呉用は自然と覚えてしまった。


「なるほど。梁山泊の山賊はただの賊ではなく、世を憂う義人の集まりときいたが、こうして近隣の民がのびのびすごしているのを見るに正解なのやもしれんな。だが阮小五。君は余りこの平和に満足がいっていないようだな」


「さすがは俺様が認めた数少ない言葉解する者の一人。俺の邪眼に匹敵する千里眼を持つ貴様には、この俺の心すらお見通しか」


 千里眼なんて持ってない、とは言わなかった。無駄である。


「お前の言う通り。魂を分けた兄弟三人、世を混沌に導く大望を抱きあっていたのも今は昔。大志を抱きながらも、こうして三人が三人とも、深淵に住まう者達を狩るという仮初の使命に甘んじている」


「ならば丁度いい。今回私が君のところに来たのは世間話をするためではない。君の望む大きいヤマをもってきたからだ」


「それは俺を動かすに足るものか?」


「10万貫の大仕事、命を賭ける価値はあるヤマさ」


「乗った!!」


 阮小五があっさり話に飛びつく。これであとは阮小二と阮小七だ。


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