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ホット・スクランブル

 航空自衛隊小松基地の端、戦闘機のアラートハンガーでは、当番の野町満(のまちみつる)1等空尉と、バディの粟津拓馬(あわづたくま)3等空尉が控室に座り、雑談していた。すると、カタカタと机が震え、その後大きく建屋が揺さぶられた。コップのココアの水面の揺らぎに気づいていた野町は咄嗟に伏せたが、粟津は大きく姿勢を崩し、地面に叩きつけられる。受け身はとったようだがこちらに這いずろうとしている。


「大丈夫かピッチャー!でかいぞ!」


「大丈夫です!マックスこそ怪我は!」


彼らはTACネーム(パイロットの愛称)を互いに呼び合い、揺れの収まりを待つ。滑走路の向かい側、小松空港の地震計は震度5弱を記録していた。


「滑走路の確認が済んだらスクランブルだ。用意しとけ。」


野町が立ち上がり、ホコリを払いながら言う。


「うっす。でかかったですね。」


腰をさする粟津が答える。高校時代は野球部に所属していた大柄な粟津も、手をついて起き上がる。室内は軽く物が動いたり机の上のコップが落ちて割れていたりはしたものの、大した被害はなかった。物が少ないせいもあるだろうか。


「震源は四国沖、マグニチュードは速報値で8.9、か。」


野町が呟く。彼の故郷は高知県南国市である。粟津が青ざめた顔で野町を見る。


「これってまさか。」


粟津の呟きが途切れる。野町は粟津を見やった。粟津の喉の奥底から、声にならない声が、こみ上げてきていた。


 十数分後、2機のF-15Jが小松基地を飛び立った。イーグル、鷲の名を与えられた機体は、岐阜県上空を南下していた。


「ピッチャー、何か見えるか。」


『マックス、まだ特には。もうすぐで濃尾平野が見えてくるはずです。』


「了解。」


野町と粟津はF-15Jを駆り、一路太平洋を目指す。


「小松AB(エアベース)、This is MAGUS(メイガス) 21、現在地岐阜県下呂市上空。」


左手には美しい山容の御嶽山が聳えていた。目を凝らすと、眼下の山並みの中に、茶色や黄土色の箇所があった。地すべりや土砂崩れだ。道路が寸断され、孤立している集落もある。土煙が霞んでいる。そのさらに向こう、都市部では、幾筋もの黒煙が見える。2機は高度を下げる。岐阜県多治見市上空、山間のニュータウンが接続道路の崩落で孤立している。記録しながら航過し、愛知県瀬戸市上空を飛び去り名古屋市に入った。眼下には陸上自衛隊守山駐屯地が、右手に見える広大な空き地は航空自衛隊小牧基地だ。名古屋市内でも、各所から火の手が上がっていた。名古屋城の西の住宅地では無数の黒煙が寄せ集まり、大火災が発生していた。


「ピッチャー、お前はこのまま関西方面だ。俺は海の方に出る。」


『了解。』


粟津は針路を西へ取り上昇していく。僚機と分かれた野町はそのまま伊勢湾を南下する。名古屋港のふ頭は液状化し、ガントリークレーンが将棋倒しになっている。中部国際空港で、駐機場の亀裂に巻き込まれた貨物機が炎上している。そしてその向こう、伊勢湾口から、白波が蠢き押し寄せてきていた。既に渥美半島南岸に到達していた津波は、湾内にもなだれ込もうとしていた。そしてそのさらに先、紀伊半島沿岸部を航過した野町は言葉を失った。


「地獄だ。」


波に呑まれ、沿岸部の街はほとんど消えていた。

次回、正式に災害派遣要請がなされます。鉄道輸送隊の出番はもう少し先になりそうですが…

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