初期微動
この話から、災害や負傷、死亡などの描写が増えると思います。そういった表現が苦手な方はご注意ください。
2032年6月15日17時20分、静岡鉄道静岡清水線の運転士である松原誠吾は、マスコンを引き、電車は定刻通り新静岡駅を発車した。駅前のショッピングモールやマンションが、線路に影を落としている。道路に挟まれた複線の線路を、A3000形はゆったりと走行していた。
『次は、日吉町、日吉町です。』
大きな道路と交差する踏切、その直前にこじんまりとした2つのホーム。電車は滑らかに停車し、扉を開く。部活終わりの高校生が踏切を自転車で越えていく。気が早い太陽は夏のように地面を照らし、17時を回っても空は青々としていた。松原は乗降を確認すると、ドアを閉めようと機器に手を伸ばした。そのとき、車内の女子高生の携帯が激しく鳴り響いた。
『地震です。地震です。』
続いて他の乗客の携帯も同様のアラーム音を流し始める。緊急地震速報を受信しATSがけたたましく鳴動する。悲鳴が響き、乗客がパニックに陥ろうとする。
「伏せて!!」
松原は客室に向けて叫ぶ。その直後、激しい揺れが電車を襲った。吹き飛ばされた松原は、そのまま意識を失った。
2032年6月15日17時21分10秒、フィリピン海プレートは蓄積してきたエネルギーを解放した。室戸岬の沖合から始まった破断は、串本沖、足摺沖、鳥羽沖、日向灘、遠州灘と広がり、浜松市沖合から宮崎市沖合までの広い範囲で大断層がうねりを生んだ。モーメントマグニチュード9.2、最大震度7。予測されていた、南海トラフ巨大地震の発生である。
しばらくは災害の瞬間や被害についての話になります。鉄道輸送隊の出動は災害緊急事態の布告ならびに災害派遣の要請がなされてからになります。しばしの間お付き合いください。




