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「隊長、おかえりなさい!」


自衛隊輸送集団・鉄道輸送隊隊長である網干幹也(あぼしみきや)3等陸佐は、隊舎の扉を押し開くと声を掛けられた。声の主は門司陽奈子(もじひなこ)陸曹長。若々しく愛らしい顔立ちの彼女は、これでも筋金入りの鉄道ファンであり、そして鉄道輸送隊車両整備小隊長である。


「ああ、今戻ったよ。駐屯地司令に顔出してくる。」


3日前から輸送集団司令部のある広島県・海上自衛隊呉基地へ出張していた網干は、階段を上り廊下を進み、装飾の施された扉を叩く。


「入れ。」


「失礼します。」


扉を開くと、恰幅の良い身体と威圧感のある背丈を持つ男が、朗らかな顔で座っていた。


「どうだった、呉の方は。」


彼は新橋道人(しんばしみちひと)2等陸佐。自衛隊輸送集団東日本輸送統括官兼高崎駐屯地司令である。


「隊の結成以来でしたが、変わっていませんでした。」


「そうかそうか、何よりだ。新津くんはまだ向こうかね。」


「ああ、新津1尉ならそろそろ向こうを出るころかと。」


2031年9月2日、新編から6年目の自衛隊海上輸送群は9防戦(令和9年国家防衛戦略)に基づき発展解消され、新たに「自衛隊輸送集団」が発足した。陸海空3自衛隊の共同運用により有事の迅速な物資及び人員の輸送を行うため、呉基地の海上輸送群のほかに、春日井駐屯地に「輸送支援群」が設置された。そしてここ、群馬県高崎市下之城町、JR高崎線の線路沿いに「高崎駐屯地」そして「鉄道輸送隊」が新設されたのだった。


「失礼します。」


駐屯地指令室を後にした網干は、1つ下の階にある自分の居室のデスクに向かう。椅子に座り、官品のデスクトップを開くと、受信BOXの通知に気づいた。メールの送り主は新津駿(にいつしゅん)1等空尉、鉄道輸送隊副隊長である。


【件名:帰隊について 業務中と思いますのでメールで失礼します。今呉を出ました。夕方15時頃には駐屯地に着けると思います。 新津】


新津1尉は鉄道輸送隊唯一の空自出身の隊員であり、また隊では珍しい防衛大(B課程)出身の幹部である。生え抜きの自衛官というよりはインテリのような印象を受ける彼だが、隊の特殊性からか自衛官らしくない面々が占める隊本部においては、重要なまとめ役でもあった。鉄道輸送隊新設に際し、鉄道輸送や車両整備に関する技能が必要だったが、自衛隊の鉄道専(・)門(・)職(・)は1966年の第101建設隊廃止から65年間存在しなかった。そこで鉄道輸送隊では、各地の鉄道会社などの技術者をスカウトし、自衛官として従事してもらうことになったのだ。実際網干も以前は東日本旅客鉄道(JR東日本)東京地域本社で運輸企画、つまり運行計画や交通戦略について担当していた。同時に予備自衛官でもあったが、それでもそこから3佐入隊とは異色の経歴だ。


「今度の転地演習はどこからどこだったっけ。」


「羽沢から仙台貨物です。陸自中央輸送隊と東北方面隊と合同です。」


網干の問いかけに応えたのは利府敏樹(りふとしき)3等海尉、鉄道輸送隊運用計画小隊長である。海上輸送群に創設から6年間所属し、新編に際し鉄道輸送隊所属となった彼は、青い洋上迷彩を身に纏っている。


「輸送計画は?JRと調整取れてる?」


「はい。東海道貨物線から武蔵野線経由で東北本線、そのまま仙台までです。」


「ダイヤはどんな感じ?あとうちからの貨車の供出とかはあるの?」


このような情報交換は会議でも行われた。利府は網干のこの調子にはもう慣れっこであり、淡々と返事をする。


「隊の創設以来最長の輸送だね、冬の東北も初めてだ。」


網干のつぶやきに利府が頷く。部隊創設から1か月と半分、鉄道輸送隊は、初めて迎える冬に立ち向かおうとしていた。

次話、鉄道輸送隊の転地演習の様子をお届けします。

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