第9話 まあ、失敗したら言ってくれ、まだ奥に在庫あるから
「いらっしゃ——何だ、昇か」
仁志がカウンターでスポーツ新聞をめくりながら声をかけたのは、黒のビシッとしたスーツを着た幼馴染の昇だった。
「よっ!」
昇は自分の家のように慣れた足取りでカウンターへと歩み寄ってくる。
「何だ? 今日は非番か?」
昇は警察官で、たまに店に顔を出していた。
「いや——今日は『仕事』で来た」
そう言うなり、昇は何故か胸ポケットからサングラスを取り出してかけると背筋を伸ばした。
「あぁ、そっちの仕事ね。で、今回はどんなの探してるんだ?」
「……今、地球に向かって巨大隕石が接近してる。それを破壊したい」
「隕石破壊ねぇ……」
仁志は煙草をくゆらせながら、空中に手をかざしてホログラム画面を出現させると、手慣れた手つきで在庫データベースを操作する。
「……『防衛衛星ソドム』はどうだ? 軌道上に設置しておけば、接近する隕石をレーザーで勝手に粉砕してくれるぞ」
「うーん、オーバーテクノロジー過ぎるな……。他の国から抗議が来るんだよ……」
昇が胃の痛そうな苦い顔をする。
「じゃあ……『超小型ブラックホール発生装置』。一瞬で吸い込んでくれるぞ。起動した後、ブラックホールがいつ消えるかは知らんが」
「後処理に困るやつは勘弁してくれ……」
「うーん……。あ、いいのがあったぞ。『超小型隕石破壊弾道ミサイル』。使い切りだ」
「それにしよう! 」
「ちょっと待ってろ」
仁志は表の棚から2リットルのペットボトルくらいの大きさのミサイルらしき物体を抱えて戻ってきた。
「ここに隕石の座標を入力して、この赤いボタンを押せば勝手に飛んでって粉々にしてくれるから。まあ、失敗したら言ってくれ、まだ奥に在庫あるから」
「助かる。で、いくらだ?」
「今月は他の買い取りが多くて現金が欲しいからな……20万で」
「20万ね……。領収書はいつもの宛名で頼む。あと、そのまま持ち歩くと目立つから、大きめの紙袋に入れてもらえるか?」
「了解」
仁志が手際よく領収書をペンで走り書きしながら、軽く笑う。
「それにしても、お前も大変だな」
「本当だよ……。普段は普通に警察官の仕事させておいて、国家存亡の危機みたいな困った時だけ、政府のお偉いさんから電話で『あの店行って、買ってこい』だからな……」
昇がサングラスを頭にずらし、深々とため息をつく。
「ご苦労さん。ほい、領収書。結構重いから、紙袋は二重にしといたぞ」
「サンキュー」
紙袋を受け取り、昇はニッと口角を上げた。
「これを防衛省の連絡員に渡したら今日の仕事は終わりだ。あとでいつもの居酒屋で飲もうぜ」
「あいよー」
昇は背中でひらひらと手を振りながら、「ガラガラ」と引き戸を開けて店を後にした。
仁志は、ポケットからスマホを取り出すと、妻のカグヤへ『昇と飲みに行くから夕飯いらない』
メッセージを送った。




