第79話 奇抜な奴だったら困るな
「仁志さん、お久しぶりー!」
引き戸を軽快に開けて入ってきたのは、昭和レトロマニアの未来人・レイラだった。
今回は聖子ちゃんカットに、華やかなフリルがあしらわれたピンクのワンピースという、まさに1980年代のアイドルの様な服装だ。
「レイラか。今日は何か目当てのものでもあるのか?」
棚の品を物色することなく、カウンターへやってきたレイラに仁志が尋ねる。
「ふふん、今日は趣味の買い物じゃなくて、仕事でどうしても使いたい道具を探しに来たのよ!」
レイラはそう言うと、手書きのメモ用紙をスッと渡してきた。
「なになに……。昭和のファッション雑誌、足踏みミシン、火で炙るヘアアイロン? ……それに、なんだこの『電髪の機械』ってのは?」
「電髪はね、昭和の美容室でパーマをかけるために使われていた機械のことよ!」
「へぇ……探してはみるが、どんな仕事で使うつもりなんだ?」
仁志はホログラム画面を開き、検索しながら尋ねる。
「実は私、ファッションデザイナーなのよ。今は昭和のレトロファッションを現代風にアレンジしたブランドを手掛けているんだけど、せっかくだからデザインだけじゃなくて、当時の製法やスタイリングの道具も使って再現してみようと思ってね!」
「あんたの時代なら、服の着替えも髪型を変えるのも簡単にできるんじゃないのか?」
「もちろん、服とヘアスタイルのデザインカードを『3Dファッションマシーン』にセットして、カプセルに入れば一瞬で変えられるわよ。でも——それじゃあ、味気ないじゃない!」
レイラがニッコリと白い歯を見せて胸を張る。
「そんなもんかねぇ……。俺なんて昔から服装にこだわりなんてないから、全部妻のカグヤ任せだけどな……」
「えぇ〜っ!? 仁志さん、素材自体は悪くなさそうなのにもったいない! 今度、私がデザインした服を持ってきてあげるわね!」
「……遠慮しとくよ」
仁志は気だるそうに返事をしながら重い腰を上げ、指定された商品を揃え始めた。
「……しかし、はじめて見たが、電髪の機械ってのはなかなかすごい形をしてるな……」
仁志が用意したのは、昭和のファッション雑誌を数冊、足踏みミシン、木製柄がついた金属製の火炙りコテ、そして丸い金属製の本体からタコ足のように何本もの太いコードが垂れ下がっている電髪機だった。
「これこれ! この無駄なゴテゴテ感と、非効率的なデザイン! 最高にクールね! おいくら?」
「ドルの方が都合が良いんだったか? 全部で……500ドルだな」
「うぐっ……思ったより良い値段するわね……」
「その電髪の機械、これ一台しかなかったからな。希少ってことで勘弁してくれ」
レイラは渋々といった様子でドル札を支払った。
「毎度ありー」
レイラはいつものように無重力ホバーで、購入した機材を載せて出口へと向かった。
「今度、私が仁志さん用に仕立てたスペシャルな服を持ってくるから、絶対に着てみてね! それじゃあねー!」
「あいよ」
レイラが楽しそうに店から出て行ったのを見届け、仁志はぽつりと呟いた。
「あそこまでこだわってると、未来の世界じゃ完全に変わり者扱いされてるんだろうな……。服を持ってくるって言ってたが、奇抜な奴だったら困るな……」
仁志は自分が今着ている普通のシャツとズボンを、改めて見つめた。




