第80話 どうこうしようとは考えてないんだろ
『この店、色んな世界の神器があっておもしろいよな!』
店内をスカイが小さなホログラム画面で飛び回り、棚に並ぶ神聖な武器や防具を楽しそうに観察している。
「色んな世界の客が来るからな。まあ、店としてはそこまで大きな価値があるものとして判断してないのが多いがな」
仁志がカウンターで煙草を吸いながら答える。
『マザーって、そもそもなんでこの店をやってるんだろうな? 神器や超兵器を保管・回収するためってわけでもないんだろ?』
「大昔から只野家が代々この店をやってるとしか俺も知らんからな。うちの家系がこの店をやってるのか、この店がうちの家系に店をやらせてるのかもわからん。店自身から何か言ってくることもないしな」
仁志が天井に向かってぼんやりと煙を吐いた。
『でもさ、こんだけ神器やら宇宙兵器やらヤバいブツがうじゃうじゃあるんだから、マザーが本気になったら相当ヤバいんじゃないか? マザー自身も色々混ざりすぎててヤバそうだし……』
スカイがそう口にした途端、ジジジッ!とホログラム画面が激しく揺らいだ。
『ひっ!? すみませんマザー! 』
「あんま余計なこと言って、店を怒らせるなよ。まあ、来た客に売っていい物は判断してるし、本当にヤバい奴は俺にも見せてないだろうしな……。店は色んな世界を含めて、どうこうしようとは考えてないんだろ」
そんな会話を交わしていると、店の引き戸が開き、立派な髭を蓄えたずんぐりむっくりな体型のドワーフやってきた。
「いらっしゃい」
仁志がいつものように気怠げに挨拶をする。
ドワーフは困惑した様子で店の中を見渡した後、棚に置かれた武器や防具を見て目を丸くした。そして何かを確信したように、カウンターへと歩み寄ってきた。
「何か御用で?」
「ここに、神器に匹敵するような武器を作れる『道具』はないか? わしは鍛冶屋をやっておるんだが、国王から『魔王を討ち払えるような伝説の武器を作れ』とせっつかれていてな……」
「鍛冶道具ねぇ……」
仁志がうーんと腕を組んで唸る。
「これほどの武具が並んでおるのだ、何かすごい鍛冶道具くらいあるだろう!」
「うちで作ってるわけじゃないからな……。鍛冶道具か……あ、あれでいいか」
仁志は重い腰を上げると、棚から打撃部がやたらと大きい片手で持てる無骨な金槌を持ってきた。
「『ミョルニル』だ。戦闘用だが、神さんが使ってた奴だから、それで鍛冶仕事をしたら強い武器が作れるんじゃないか?」
『おい仁志、それ鍛冶道具じゃなくて北欧神話の武器だろ……。しかも、こっちの世界じゃ超有名どころのやつだし……』
スカイが冷ややかな目を送っている。
「神が使っておった鎚か……」
ドワーフが両手でずっしりと持ち上げると、ミョルニルの頭部分からバチバチッ!と青白い稲妻と火花が散った。
「ほう! これなら、最高の剣が作れそうだ! これを譲ってはくれんか!?」
「いいけど、お金か何か物々交換できそうな物はあるかい?」
ドワーフはポケットや革袋をごそごそと漁り、何かないかと探す。
「神が使っていた品に見合うかわからんが……わしが愛用しておるこの金槌はどうだ?希少なミスリル製だぞ」
手に馴染んだ、使い込まれた金槌を仁志に差し出す。
「ドワーフの鍛冶屋の金槌か……。いいよ、これで」
『えぇ……本物のミョルニルとただの金槌を交換って……』
スカイが露骨に引いている。
ドワーフはミョルニルを満足そうに抱えて、店を出て行った。
『おい仁志! 神器のミョルニルとドワーフの金槌なんて、価値が全然釣り合ってないだろ!』
「そうか? 使い込まれてて良い金槌だぞ。渡したミョルニルより、こっちの金槌で作った方が良い武器が作れそうなぐらいだ。それに、あの客が普通に店の外へ出られたんだから、店もこれが同価値って判断したんだろ」
仁志とスカイが店舗の天井をジッと見上げる。
『はぁ……仁志もマザーも適当なんだか、価値観の基準がおかしいんだか……』
スカイが呆れてため息をつくと、空中のホログラム画面が再びジジジッ!と小さく揺らいだ。




