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第77話 そ、そうだな……

お昼時。

仁志がカウンターでカグヤの手作り弁当を食べようと探してみたものの、鞄の中にもカウンターの中にもどこを探しても弁当が見当たらない。


「……弁当がない。おふくろがいた時に、たまに昼めし作って貰ってたからな……。受け取るの忘れてた……」


仁志のお腹がグゥ〜っと鳴り響く。


「仕方ない、スカイと先輩に店番を頼んで、近くのコンビニでも行ってくるか……」


仁志が空腹に耐えかねて重い腰を上げようとした、その時——。


ガラガラと店の引き戸が開いた。


「仁志さん、ごめんなさい! 今朝お弁当渡すのをすっかり忘れてたわ!」


エプロン姿のカグヤがお弁当箱の包みを手に、慌てた様子で店内へ駆け込んできた。


「カグヤ、すまんな。俺の方もすっかり忘れてわ」


仁志が頭をポリポリと掻きながら弁当を受け取る。


「私もお義母さんがいた時の感覚がまだ抜けくて、たまに渡し忘れちゃうのよね……。でもね仁志さん、今日は私の分のお弁当も持って来たの、せっかくだから一緒に食べましょ」


「そうだな。たまには二人で食べるか」


二人が仲良くカウンターにお弁当を広げ、食べようとした時、店の引き戸が再び開かれた。


「店主よー! また意中の子にフラれて、別の子から新しく無理難題の品を要求されたから買いに来たぞー!」


入ってきたのは、以前この店で『賢者の石』『月に立てられた星条旗』を買った月の民の青年だった。


「なんだ、月の兄ちゃんか……。また振られたのか?」


「聞いてくれ店主! 前回の失敗を反省して、今回はちゃんと苦労して手に入れた感を演出しながら渡しに行ったんだが——ん?」


熱弁していた青年が、仁志のすぐ隣に座っているカグヤと目が合った。


「……え? か、カグヤねえさん……?」


青年がぽかんと口を開けて呟く。


「……ミカド……!? ……ハッ! ひ、人違いじゃないですかー!? 私はあなたと、一度もお会いしたことありませんよー!?」


カグヤは露骨に目を逸らし、声を裏返しながら言う。


「僕ですよ! 従兄弟のミカドです! 昔、よく遊んでくれてたじゃないですか! 母さんから『カグヤちゃんは地球人と結婚した』とは聞いてましたけど、まさかこの店の店主さんと結婚していたなんて……!」


ミカド青年が嬉しそうに昔を懐かしむ。


「もう17年ぶりくらいかなぁ? 僕がまだ8歳くらいの時でしたよね。カグヤねえさんが急に『地球に留学する』って言って出て行っちゃったから、当時は僕もすごく寂しくて——」


ミカドが思い出話に花を咲かせようとした瞬間、カグヤがバンッ!と凄まじい音を立ててカウンターを叩き、立ち上がった。


「お客様ー? 人違いでございますよー! 誰か別の方と勘違いなさっているんじゃないですかー!?」


カグヤが引きつった笑顔で圧をかける。


「いや、頭の耳は隠してるけど、声も顔も間違いなくカグヤねえさ——」


カグヤはミカドの言葉を最後まで言わせず、彼を掴むと、そのまま凄まじいで出口へと引きずって行った。


「はーい、お客様がお帰りでーす!」


「カ、カグヤねえさん!? まだ無理難題の品を買ってな――」


ミカドが何かを叫んでいたが、カグヤは有無を言わさず彼を引戸から放り投げ、ガッシャン!と引き戸を閉めた。


「おほほほほ! 困ったお客様だったわね、仁志さん! 私のことを誰かと勘違いしちゃって!」


カグヤは口元に手を当て、頬をピクピクと引きつらせながら笑ってみせた。


「そ、そうだな……」


一部始終を見ていた仁志だったが、妻の圧にそれ以上は何も突っ込めず、苦笑いするしかなかった。

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