第75話 どうにも俺は、魔法関係は詳しくないからな
ウー! ウー!
仁志がカウンターで気だるそうに煙草を吸っていると、突如として店内に警告音が鳴り響き、赤いサイレンが激しく回転し始めた。
「……なんだ、ドンドでも来たか?」
仁志がホログラム画面を開き、警報の発生源を確認すると、地下倉庫に見たことのない小型の宇宙船が停まっていた。
「……ドンドじゃないな。とりあえず、見に行くか」
仁志は重い腰を上げると、本棚の隠し扉を開けて地下倉庫へと向かった。
警告音が鳴っていたエリアへ到着すると、そこには一人乗りの小型戦闘用宇宙船が、あちこちから黒い煙を上げていた。
「おーい、乗ってる奴、大丈夫かー!」
仁志が宇宙船に向かって、手を口に当てて声を張り上げる。
すると、プシューッと音を立ててコックピットの勢いよく開き、宇宙服を着た男がヘルメットを外しながら、頭をボリボリと掻いて出てきた。
「いやーまいった、まいった! 一時はどうなることかと思ったが、生きてたか……。ん、どこだここ? どこかの宇宙ステーションの中か?」
男は広大な地下倉庫をキョロキョロと見渡す。
「ここは地球の『ただの』って中古屋の地下倉庫だ。ここへ流れ着く前、一体何があったんだ?」
男は宇宙船からハシゴを使って降りてきた。
「いやー、宇宙海賊どもと戦闘をしてる最中に、いきなり空間に小型のブラックホールが発生してさ。 船ごと吸い込まれたんだよ……」
「そりゃあ、また災難だったねぇ」
二人は壊れた宇宙船を並んで見上げた。
船体のあちこちにはレーザー兵器の被弾跡が痛々しく残り、剥き出しになったエンジンルームからは今もパチパチと火花と黒煙が上がっている。
「あちゃー……こりゃあもう完全に駄目だな。地球なんて聞いたこともない星だし、壊れた船じゃ自力で元の宇宙ステーションまで帰ることもできないぞ……」
男はがっくりと肩を落とし、ため息をついた。
そしてチラリと仁志の顔を見る。
「まぁ、うちは中古屋だからな。現金か、何か物々交換できそうな物でもあるなら、ここにある別の宇宙船でも売ってやろうか?」
「それは助かる! ……と言いたいところなんだがなぁ、急なスクランブル発進で慌てて戦闘に出たから、手ぶらで乗り込んじゃってさ。あるのはこの宇宙船だけだ……」
男は再びがっくりと肩を落として途方に暮れた。
「……どれ、壊れた船が買い取れるかちょっと見てみるか」
仁志はエンジンルームを覗き込む。
相変わらず激しい黒煙と火花が散っており、修理は難しそうだ。
「エンジンは完全に焼き切れてて駄目だな……。メインシステムのデータ類はどうだ?」
コックピットに潜り込み、男に直接コンソールパネルを操作させてシステムをチェックする。
「おっ、あんたが所属してる宇宙ステーションの座標データは生きてそうだな」
二人はコックピットから降りると、仁志は煙草に火をつけた。
「このボロボロの宇宙船じゃ、他の宇宙船との物々交換ってわけにはいかないな……。けど、この船を引き取る代わりに、店のワープシステムを使って、あんたを宇宙ステーションの座標まで転送してやろうか?」
「えっ、本当か!? それはめちゃくちゃ助かる!」
「よし、じゃあすぐ送るぞ」
仁志はホログラム画面を呼び出すと、宇宙船から抽出した宇宙ステーション座標を入力した。
足元に転送光が広がり、男は敬礼しながら、笑顔で転送されて行った。
仁志は煙草に火をつけながら、ふと、以前に急な異世界転移でこの店へ迷い込み、路銀を作るために家宝の剣を売っていった、エルフィン出身の剣士の姿を思い出していた。
「そう言えば……あの時の剣士は、今どうしてるかね。魔法陣の研究をやってた親父なら、上手いこと元の世界へ還してやれたかもしれんが……。どうにも俺は、魔法関係は詳しくないからな……」
仁志は少しだけ申し訳なさそうな顔を浮かべながら、煙を天井へ吹き出した。




