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第74話 持っておいて損にはならんだろ

今日は土曜日。

誠司が店に手伝いしに来ていた。

仁志がカウンターでスポーツ新聞を読んでいる横で、誠司はスカイと雑談を交わしていた。

すると、ガラッ!と店の引き戸が勢いよく開いた。

入ってきたのは、身の丈2メートルを超える筋肉隆々の巨漢の男だった。

その頭部からは、鋭い3本の角が生えている。


「いらっしゃい」


仁志はチラリと客を見ただけで、すぐにスポーツ新聞へと視線を戻した。


「お、お父さん……! なんか、すごく怖そうな人が入ってきたけど大丈夫なの……!?」


誠司が怯えながら小声で仁志に言った。


「ん? ……まあ、大丈夫だろ」


仁志が適当に答えていると、男はズシン、ズシンと重い足音を響かせながらカウンターへと歩み寄ってきた。

誠司は震え上がり、仁志の背中に隠れた。


「我が封印を解いた悪魔・ザグールから、この地に封印されていたと聞いた」


威圧的な声で男が言い放つ。


「……悪魔……封印。はて、何のことだったかな……」


『おい仁志! この前の、悪魔に売った邪神の石像のことじゃないか!?』


仁志が思い出そうとしていると、スカイがすかさず叫んだ。


「ああ。たしか邪神ゴーグだったか? 無事に封印が解けたんだな」


「うむ。ワレがこの地に封印されていたのであれば、我が愛剣も近くにあったはずだ。知らぬか?」


「剣ねぇ……。石像の近くにはなかったが……」


仁志がホログラム画面を開いてデータベースの在庫を検索し始める。


「……あ。『邪神の魔剣』ってのがあるな……。ちょっと見て貰うか」


仁志は椅子から立ち上がり、地下倉庫へ降りようとする。


「ちょっとお父さん!? 僕を一人にしてどこ行くの!?」


誠司が突然の放置に動揺する。


「スカイも居るし、店の中なら大丈夫だろ。すぐ戻る」


仁志はそう言い残すと、さっさと地下倉庫へと降りて行ってしまった。

誠司はカウンターの中で膝を震わせながら、仁志の帰りを待った。

邪神ゴーグは無言のまま、腕を組んでジッと誠司のことを見下ろしている。


『おい! 後輩に手を出そうもんなら、タダじゃおかないからな!』


スカイが画面の中から威嚇してゴーグを牽制する。


「……ふん。他神の加護を受けた人間に、迂闊に手を出すほど愚か者ではないわ」


ゴーグが鼻で笑う。

誠司は以前、商店街の裏路地にある小さな祠の神様から加護を受けていた。


(あの商店街の神様の加護でも、邪神に効果あるんだ……)


誠司は少しだけ安心し、体の震えも次第に収まってきた。


そうして待っていると、仁志が地下から一本の長剣を抱えて戻ってきた。

紫色の怪しい光沢を放つ刃からは、禍々しいオーラが溢れ出ている。


「これがあんたの剣かい?」


ゴーグが差し出された剣を受け取る。


「……我が愛剣に間違いない。返してもらうぞ」


「タダで渡すわけにはいかんからな、何か代わりに交換できそうな代物を持ってるかい?」


仁志に支払いを求められ、ゴーグはしばし腕を組んで考え込んだ。


「……我が『邪神の加護』でどうだ?」


「邪神の加護ねぇ……。俺はもう加護はいらんからな……。誠司、お前が貰っておくか?」


「えっ!? 僕!?」


仁志のあまりに突然すぎる提案に、誠司が動揺する。


「商店街の神様の加護があるのに、邪神の加護なんて貰っちゃって大丈夫なの!?」


「俺も色んな神さんから、加護を何個も貰ってるから平気だろ」


仁志が軽く言う。


「では、この小僧に我が加護を授けるとするぞ」


「ちょ、ちょっと待って! 心の準備がまだ——!」


誠司が慌てて叫ぶのも聞かず、ゴーグは掌を誠司の額に向けてかざした。

すると、禍々しいオーラが誠司の全身を包み込み、やがて身体に吸い込まれるように消えていった。


「これで、我が加護を授けたぞ」


誠司はおそるおそる自分の手を握ったり開いたりしてみたが、特に何の変化も感じられない。


「加護ってさ、貰ってもいまいち効果がわからないんだよな……。急に魔法が使えるようになるとか、力が湧き上がるわけでもないし」


仁志が隣で呟く。


「当たり前だろ、加護とは『護りの力』なのだからな。これで大抵の天使族からの攻撃は効かんだろう」


「えぇ……天使に攻撃されることなんて、そうそうないと思うんだけど……」


誠司が思わず呆気にとられる。


「では、我が剣も戻ったことだ、帰るとする。さらばだ」


ゴーグは、ズシン、ズシンと足音を立てながら店の出口から去っていった。


『よかったな後輩! 邪神から加護を貰えるなんて!』


スカイが画面の中でパチパチと手を叩く。


「……良かったのかなぁ……」


誠司は微妙な表情を浮かべた。

その横で、仁志が呟いた。


「まぁ、この店には色んな世界の神さんが来るから、持っておいて損にはならんだろ」

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