第71話 俺にとっての、もう一人の母親だよ
「よし……やってみるか」
リサイクルショップ『ただの』の定休日。
地下倉庫に仁志が来ていた。
目の前にあるのは、仁志が10歳になるまで母親代わりとして世話をしてくれた、メイド型アンドロイドの『朝子』だった。
平治から店を継いで以降、仁志は何度か朝子の修理を試したが、彼女は今も静かに目を閉じたまま動いていない。
「スカイ、サポート頼んだぞ」
仁志はホログラム画面を開き、スカイを呼び出した。
『アンドロイドの修理だな! 任せとけ、内部スキャンと回路分析でバッチリバックアップしてやるぜ!』
仁志はスカイの指示とサポートを受けながら、丁寧に朝子のメンテナンスを開始した。
『なあ仁志、このアンドロイドってそんなに特別なのか? 他のロボットのメンテナンスよりも丁寧だな』
スカイが画面の中から不思議そうに尋ねる。
「ああ……。このアンドロイド『朝子』さんは、おふくろが魔界へ行ってから、小さかった俺を代わりに育ててくれた大切な人なんだ……」
仁志はパーツを丁寧に扱いながら語る。
「アンドロイドなのに、俺が危ないことをしたり、悪いことをすると、本気で怒ってくれてたんだ。親父よりも俺のことをしっかり育ててくれてたよ……」
『へぇ……。じゃあ朝子さんは、俺みたいに自我を持っていたのかな?』
「どうだろうな……。単に設定されていた『子育て』みたいなプログラムに従って、動いていただけかもしれないな。アンドロイドとしては、古い時代のモデルだしな……」
仁志は作業する手を止め、どこか遠い目をして幼少期の思い出に浸る。
「……たとえ自我は無かったとしても、間違いなく俺にとっての、もう一人の母親だよ……」
仁志は静かにそう呟くと、再び修理作業へと戻った。
◇
——夕方。
朝子の修理作業が終わった。
スカイのサポートを受けながら、劣化して悪くなっていた部品を交換し、電子回路の接触不具合や断線がないかも一通り確認し終えた。
『これで完璧だ! 悪い場所は無さそうだぜ! 頭脳回路のデータにも不具合なしだ!』
「よし……。電源を入れてみるぞ……!」
仁志は祈るような気持ちで朝子の背中にある電源スイッチを入れた——
しかし、朝子の瞳が開かれることはなかった。
『あれ!? おかしいな……故障もシステムのバグもどこにも無いはずなんだけどな……?』
「……やっぱり駄目か。不思議と、どこにも悪い場所が無いのに動かないものってあるんだよな。朝子さんにも、今の俺の姿を見てほしかったんだが……」
仁志は大きなため息を吐き出し、ポケットから煙草を取り出して火をつけようとした。
その時——。
『……大きくなられましたね……仁志様』
「えっ!?」
耳元で聞こえた優しく温かい声に驚き、仁志は朝子の方を振り返った。
だが、朝子は先ほどと変わらず、静かにそこに佇んでいるだけだった。
「スカイ……。……今の声、聞こえたか?」
『えっ? 声……? いや、何も聞こえなかったぞ? 』
「……そうか。スカイ、すまんがちょっと一人にさせてくれ。じゃあな」
『……おう。じゃあな、仁志……』
仁志はスカイをそっと閉じると、静かな地下倉庫で煙草に火をつけた。
そして、天井を見上げながら、ゆっくりと煙を吐いた。




