第7話 うちはナマモノの買い取りはやってないよ
仁志がカウンターでコーヒーを啜っていると、「ガラガラ」と引き戸が開き、客が入ってきた。
客は全身が鮮やかなエメラルドグリーンで、頭部から細長い触覚が2本生えている。
どうやら昆虫型の宇宙人のようだ。
「いらっしゃい」
仁志はマグカップを置き、短く声をかける。
客は店内に並ぶ怪しい骨董品やガラクタには目もくれず、一直線にカウンターへ足早に歩み寄ってきた。
「 ちょっとヤバい品を買い取ってほしいんだが……」
客は周囲を見回しながら、声をひそめて言った。
「ふーん、ヤバい品ね……。とりあえず買い取りできるか見るよ。出してみて」
「ここでは狭すぎて、とてもじゃないが出せない……」
「なに? デカいの? 」
客は黙って頷いた。
「……じゃあ、地下に行くか」
仁志は面倒そうに立ち上がると、本棚の隠し扉を開き、客と共に地下の四次元倉庫へと向かった。
何もない真っ白で無限に広がる空間に到着すると、仁志はポケットに手を突っ込みながら話を促した。
「どう? ここならどれだけデカくても大丈夫だけど、出せそう?」
客は無言で頷くと、手首に装着された近未来的なデバイスを操作した。
次の瞬間、空間がぐにゃりと大きく歪み、ズズズ……と東京ドームほどもあるドクンドクンと不気味に脈打つ、赤黒い有機的な球体が出現した。
「……これは?」
「研究所の実験で偶然生まれてしまった……成長すれば『星を壊しかねないバイオ兵器』です……」
「バイオ兵器?」
仁志は露骨に嫌そうな顔をして「ハァー……」と深々とため息をついた。
「どこで噂を聞いてきたか知らないけどさ、うちはナマモノの買い取りはやってないよ。悪いけど持ち帰ってもらえる?」
「そ、そこを何とか! どうにか球体形態にまで戻せたんです! 母星に持って帰って、もしまた暴れ出したら今度こそ私たちの星が……!」
客は必死の形相で拝み倒してきた。
仁志は頭を掻きながら、しばし思案した後にぽつりと答えた。
「まあ、そんなヤバいもん、宇宙に解き放たれても困るな……。買い取りはできないけど、今回だけ特別に『処分』だけしてやるよ」
そう言われた瞬間、宇宙人の顔が一気に明るくなった。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます……! 」
客は仁志の手を握りしめ、何度も何度も頭を下げて感謝した。
「いいかい、うちはナマモノは一切扱ってないからね!あと、危険物の処分屋でもないから!」
「はい! 本当に申し訳ありませんでした!」
仁志がビシッと怒ると、一息ついてから呆れたように言葉を続けた。
「今度来る時は、ちゃんと店で売れるような物を持ってくるか、何か買ってけよ」
「はい!本当にありがとうございます!」
客は何度も深くお辞儀を繰り返すと、安心したようにワープ装置を起動し帰っていった。
「……さてと」
仁志は客がいなくなったのを確認すると、空中にサッと手をかざし、浮かび上がった青いホログラム画面を手慣れた手つきで操作した。
すると、巨大なバイオ兵器の直下の床がパカッと開き、球体は四次元空間のさらに深い最下層へと落ちていき、やがて影も形も見えなくなった。
店のカウンターに戻った仁志はドカッと椅子に深く腰掛けた。
「ったく……。うちは便利屋じゃないってーの……」
仁志はカウンターに置いてあったスポーツ新聞をバサッと顔に載せると昼寝をしはじめた。




