第6話 俺もこの店も、もう加護はいらないよ
「いらっしゃい……神さん」
仁志がカウンターでスポーツ新聞をパタリと閉じ、気だるそうに声をかけたのは、店の近くにある商店街にひっそり佇む、小さな祠の神様だった。
神様とは名ばかりで、見た目はボロボロの着物を羽織り、白髪と髭が伸び放題の、どう見ても貧乏神か浮浪者にしか見えない姿をしていた。
「仁志や……最近はキャッシュレス決済とかいう奴のせいで、めっきり賽銭が減ってのう……。全然現金が手に入らんのじゃよ……」
「そりゃ大変だね……。ねぇ神さん、いっそお酒やめたら? 」
仁志は呆れたようにため息をついた。
「酒は唯一の楽しみなんじゃ! 頼む、何か買い取ってくれ!」
「そう言われてもねぇ。神さん、売るものなんてあるの? この前ついに自分のご神体まで売りに来たじゃない」
仁志がチラリと店内の棚に目をやると、埃をかぶった素朴な木彫りの神像(1800円)がぽつんと並んでいた。
「わ、わし自身に宿る『神の加護』なら、いくらでも授けてやるぞ! 厄除け、無病息災、商売繁盛、なんでもござれじゃ!」
「俺もこの店も、もう加護はいらないよ……」
「そこを何とか! 酒代の1万円……いや、5000円でいいんじゃ! 頼むー!」
神様がカウンターにボロボロの手と頭を擦り付け、必死の形相で拝み倒した。
「ハァ……参ったな。カグヤも加護なんて、もういらんだろうし……。しゃあない、息子の誠司にでも付けておいてよ」
「よし、聞き届けたぞ! 今回は特別に特大の加護を授けてやるわい! そりゃあッ!!」
神様がカッと目を見開き、両手を天井に向かって力強く突き上げた。
◇
同じ頃、誠司が通う小学校の教室。
「——では、教科書の42ページを開いて……」
担任の先生が黒板にチョークで文字を書こうとした、その瞬間。
授業を受けていた誠司の全身から、突如として凄まじい光が解き放たれた。
「うお!?? なんだなんだこの光は!?」
「キャーッ! 目が! 」
教室中が光に包まれ、児童も先生も目を押さえて大パニックになっていた。
やがて神々しい光は徐々に収まっていった。
「ハァ、ハァ……一体何だったんだ今の光は……。みんな、大丈夫か!? 怪我はないか!?」
教師が眼鏡を直しながら、生徒たちの安否を確認する。
クラスメイトたちが困惑する中、誠司は机の下で拳を握りしめた。
(絶対……絶対にお父さんの仕業だ……!!)
誠司は怒りと羞恥心で顔を真っ赤にし、身体を激しく震わせていた。
◇
その頃、リサイクルショップ『ただの』。
「これで誠司もちょっとやそっとのことじゃ、怪我しないだろ。はい、1万円」
仁志はカウンターから1万円札を取り出し、神様に手渡した。
「おおお! ありがたい! これでしばらく酒が飲める! ではな!」
1万円札を大事そうに懐に仕舞い込むと、神様は満足気な笑顔を残し、煙のように消えていった。
「毎度ありー」
仁志は吸い殻を灰皿で揉み消すと、呑気に鼻歌を歌いながら再びスポーツ新聞を開いた。
夜、仁志は家に帰ると誠司からこっぴどく怒られた。




