第5話 お客さん、どの時代から来た人?
仁志がカウンターでテレビの野球中継を観ていると、ウィーン……ガチョンガチョン!と重厚な機械音が店内に響き渡った。
木製の棚は金属光沢を放つ半透明のフレームへと変貌し、怪しい骨董品や呪物は浮遊するホログラムデータや結晶体へと変わり、店内全体が近未来的な様相になった。
だが、仁志はまったく動じることなく、そこだけは昭和の空気を保ったままのいつものカウンターで野球中継を見続けた。
すると、ガラガラ……と引き戸が開き、客が入ってきた。
客は全身をぴっちりと覆う、宇宙服のようなスタイリッシュなスーツを着ており、首元からはシュコーという循環音が漏れている。
「いらっしゃい」
仁志はそれだけ短く言うと、テレビ画面へと視線を戻した。
客は何か特定の目的物を探すように、発光する棚の立ち並ぶ店内を熱心に見て回っていた。
だが、しばらくして諦めたのか、カウンターにいる仁志に声をかけた。
「あの……すみません。ちょっと未来の物を探してるんですけど……」
仁志はテレビから目を離さず、チラリと横目で客を見た。
「お客さん、どの時代から来た人?」
「ええと……おそらく2000年後ぐらいの未来から来ました」
「あぁ、2000年後ね……。それなら、あそこの青く光ってる棚から、奥の黒い棚の手前までだね。……あっ!クソッ、打たれたよ!」
仁志は応援しているチームが痛打されたのを見て、あからさまに舌打ちをしながら適当に手で指し示した。
「あ、ありがとうございます……」
客は仁志が指さした棚の方へと向かう。
「あ、1万年後以降のエリアは人類が作ったんじゃないっぽいから取り扱いに気をつけてね」
仁志は画面からは目を離さずに注意をした。
案内された棚には、『〜3000年後』『4000年〜1万年後』『1万年後以降』と、手書きのポップが貼られている。
棚には、高速で回転するボール形状の謎の機械や、背丈ほどもある黒い四角い板、怪しく明滅する光の粒子など、2000年後の客にすら用途がさっぱり分からない代物がズラリと並んでいた。
客はしばらく悩んだ挙句、自分では見つけられないと諦めて再度カウンターへと戻ってきた。
「あの……たびたびすみません……」
「なに? いま良い所なんだけど。満塁のピンチなんだよ」
仁志は頑なにテレビから視線を逸らさない。
「すみません……。実は、私の時代よりさらに未来から来た科学者に、この店に『星の規模で大気を浄化する装置』を売ったと教えられたんですけど……」
仁志は「大気を浄化ねぇ……」と少し考え込んだ後、現代の家電量販店で売っていそうな白い空気清浄機のようなデザインの物体を指さした。
「多分あれだね。前に地下で動かしたら、ものすごい勢いで周りの空気を吸い込みまくってエラい目に遭ったんだ」
「ありがとうございます! おいくらでしょうか?」
「んー、1万5000円でいいよ」
「すみません、あいにくこちらの時代のお金を持ってないのですが……」
「あー、いいよいいよ。そっちの時代のお金で。……よし! いいぞ、ここでちゃんと三振に抑えろよ!」
客は深く頭を下げると、カウンターに2000年後の未来で使われている透明なクレジットチップのような物を置いた。
「それ、抱えて持ってくの重くて大変だろうから、そこの入口にある台車使っていいよ。返さなくていいから」
「ありがとうございます」
客は再度頭を下げると、空気清浄機みたいな機械を台車に乗せ、押しながら店を出て行った。
「毎度あ——ぎゃー!! なんでそこで痛恨の押し出し四球出すんだよ! あと1アウトだっただろ!!」
仁志は激しい悲鳴を上げながら、ガックリとカウンターに突っ伏した。




