第69話 妙に他人の気がしないんだよな
「今日は暇だな……」
カウンターでスポーツ新聞を広げながら、仁志がぼやいた。
『「今日は」って、いっつも1日2・3組しか来なくて大して忙しくないだろ!』
ホログラム画面の中からスカイがすかさずツッコミを入れる。
二人がそんな軽口を叩いていると、店の引き戸が開いた。
入ってきたのは坊主頭にカジュアルな服を着た、ごく普通の青年だった。
『ほら、客が来たぞ仁志!』
「スカイに指示されるとは……。いらっしゃい」
仁志が声をかけると、青年は店内の商品に目をくれることもなく、迷いのない足取りでぐカウンターへとやってきた。
「仁志さん、お久しぶりです!」
青年は満面の笑みで、元気に仁志へ挨拶した。
「……? どっかであんたと会ってたかい? 申し訳ないが、見覚えがないんだが……」
仁志は青年の顔をまじまじと見つめるが、思い当たる節がない。
「ふっふっふっ、分かんないですよね! 俺ですよ、俺! 以前『ボディチェンジマシーン』を持って来た!」
「……! ああッ! あの時のコロッピか!」
やってきた青年の正体は、以前持ってきた『ボディチェンジマシーン』の誤作動で、仁志と身体が入れ替わった宇宙人のコロッピだった。
「お久しぶりです! 住んでるコロニーの地球人に体を借りて、約束通り遊びに来ました。スカイくんも久しぶり!」
『久しぶりだな、コロッピ! 青い顔とじゃないから、サッパリ分からなかったぜ!』
「よく来たな、コロッピ。それにしても、よく人間の身体を借りられたな?」
仁志が不思議そうに尋ねる。
「自分が住んでるコロニーっていろんな宇宙の多種族が暮らしてるんで、子供の頃からお互いにボディチェンジして異種族の文化や身体の仕組みを学ぶんです。だから、身体の貸し借りはすごくポピュラーなんですよ」
「へぇ……だからボディチェンジマシーンなんて持ってたのか」
仁志が納得して頷く。
「仁志さん! 前に約束した通り、店の外の世界を案内してくださいよ!」
「おぉ、そうだったな! ちょっと待ってろ、すぐ準備するから」
仁志はそう言うと2階へ上がり、父・平治を引きずりながら降りてきた。
「おい仁志! いきなりなんなんだ急に! 」
平治は何が起きているのか状況が分からず慌てる。
「親父、ちょっと飲みに行ってくるから店番頼む! よし、行こうコロッピ」
「はい、行きましょう!俺、 『寿司』と『天ぷら』を食べてみたかったんですよねー!」
「いい店知ってるぞ。それにしても、コロッピとは妙に他人の気がしないんだよな……」
「それがボディチェンジを経験するメリットなんですよ! 一度お互いの精神が入った相手だから、自然と親近感が湧いて優しくなれるというか——」
仁志とコロッピは肩を組み、まるで長年の親友のように仲良く会話を弾ませながら店を出て行った。
『おいッ! 仁志だけズルいぞ! 俺様も連れてけー! 』
取り残されたスカイが、ホログラム画面の中で地団駄を踏んだ。
「仁志の奴が、客とあんなに親しげにするなんて……珍しいこともあるもんだな……」
平治はポカンと口を開けたまま、二人が去っていった引き戸を呆然と見送った。
——その日の夜遅く。
「親父ぃ! 今夜はコロッピをここに泊めてやってくれ!」
「そんなー、悪いですよー! いくらなんでもいきなり泊めてもらうなんて申し訳ないですよーへへへ……」
すっかり出来上がった仁志とコロッピは、お互いに肩を借り合い、千鳥足で店へと帰ってきた。
——そして翌朝。
そのまま店の床で寝ていた二人が目を覚ますと、平治・スカイ、そしてカグヤから、こっぴどく怒られた。




