第68話 どう見てもただの指輪なんだがな
仁志がテレビのプロ野球中継をぼんやりと眺めていると、店の引き戸が開かれた。
入ってきたのは、子供ほどの背丈に灰色の皮膚、腰に腰蓑を巻きつかつけたゴブリンのような客だった。
ゴブリンのような客は、酷く怯えた様子で店内をビクビクと見渡している。
「……いらっしゃい」
仁志はチラリと客を見ただけで、すぐにテレビへと視線を戻した。
客は落ち着かない様子で周囲をキョロキョロと見回し、小刻みに震えながらカウンターへと近づいてきた。
「す、すまない……。ヤ、ヤバい物を買い取って、ほ、ほしいんだ……っ」
客は身体を震わせる、吃りながら仁志に話しかけてきた。
「今日はどっちのチームもエラーが多い割には点が入らんなぁ……。とりあえず買い取れるかどうか見てみるよ」
客はおそるおそる、ポケットから普通のシンプルな金の指輪を取り出し、カウンターへ差し出した。
仁志は指輪をつまみ上げると、光にかざしてじっくりと観察してみる。
「……普通の金指輪にしか見えんが。何か特別な呪いか魔法の力でもあるのか?」
「そ、その指輪は……大昔に封印された、あ、ある恐ろしいお方の指輪なんだ……! ずっと、俺に『我が元へこの指輪を持ってこい』って、さ、囁き続けてるんだ……! ほ、ほら! 今も聞こえる! お、俺が手放そうとしてるから、お、怒ってる……っ!!」
客はそう叫ぶと、耳を強く塞いで、床にうずくまってしまった。
仁志は指輪を自分の耳元へ近づけてみる。
「……うーん、何も聞こえんな。とりあえず、店にも見てもらうか」
仁志が空中に青いホログラム画面を呼び出し、そのスキャナーに指輪をかざした。
「ひゃあぁぁぁーーーっ!!! あ、頭が割れそうだぁぁっ!!」
客は頭を抱え、床をのたうち回って苦しみ出した。
そして、ホログラム画面に査定結果が出たその瞬間——。
「……あれ……? こ、声が……止んだ……?」
客は呆然とした顔で顔を上げ、静まり返った店内を見渡した。
「査定結果が出たぞ。『ソラリスの指輪:ソラリスが所有していたとされる指輪』……これだけか。これ以上わからんから、買い取り価格は1万円だな。どうする?」
「そ、それでいい! 今すぐ、か、買い取ってくれ!!」
仁志がレジから出してきた1万円札を差し出すと、客はそれを引っ手繰るように受け取り、急足で出口へと向かった。
「や、やっと解放されたんだ! あ、あの方を、も、もう恐れなくてすむんだぁぁっ!!」
客は歓喜の叫びをあげながら、店から飛び出していった。
仁志は残された指輪をもう一度光に透かしながら、首をかしげて呟いた。
「どう見てもただの指輪なんだがな……。今の客の幻聴かね。随分精神的に追い詰められてたみたいだし……」
仁志は指輪をアクセサリーケースに入れると、再びテレビへと視線を戻した。
「……なんで満塁のピンチになってんだよ」




