第65話 カグヤの方がよっぽどおふくろと親睦深めてるな
母・セイランがウキウキとした足取りで、2階の住居スペースから降りてきた。
「おふくろ、どこか出掛けるのか?」
カウンターの仁志が声をかける。
「カグヤさんと商店街でお茶してくるわねー」
仁志は小さくため息をついた。
「実の息子の俺とより、カグヤの方がよっぽどおふくろと親睦深めてるな」
「あらあら、色々女性同士の家族としか話せないデリケートなこともあるのよ。仁志さんだって、お母さんにベタベタされるのなんて嫌でしょ? それとも何かしら、本当はお母さんに甘えたいの?」
セイランがニコニコと嬉しそうに微笑みながら、カウンター越しに仁志の頭を優しく撫で回す。
「……頭を撫でるのは止めてくれって」
「うふふ。じゃあ、行ってくるわねー」
セイランは軽やかな足取りで出かけて行った。
◇
下町の商店街にある喫茶店。
その奥のテーブル席で、カグヤとセイランが仲良くお茶を楽しんでいた。
「すごく分かります、お義母さん! うちの男たちって、自分の変なこだわりを押し通すっていうよりは、自分の内側にある基準を頑なにずらさないんですよねー。誠司もおとなしい性格ですけど、変なところで結構頑固なんです」
「うふふ、男の子って幾つになってもそんなもんなんじゃないかしら? でも、カグヤさんは本当にすごいわー。元の場所に帰らずに、ずっとここで過ごせていて」
カグヤがその言葉にギクリと肩を跳ねさせた。
「な、なに言ってるんですかお義母さん! 私はこっち出身ですよー!?」
「あら、そうなの? 前に『耳を隠してると頭が痒くなる』って言ってたから、私と同じように種族の特徴を隠して生活してるのかと思ってたわー」
セイランが「うふふ」と紅茶のカップを傾ける。
「お、お義母さんも、仁志さんを産むまではこっちで普通に過ごしてたんですよね? その時や、今は体調は大丈夫なんですか?」
カグヤが焦りを誤魔化すように尋ねると、セイランは紅茶を一口啜り、昔を懐かしむように話し始めた。
「はじめてあの『ただの』と魔界と繋がった時、店にいたお父さんにいきなり『俺と結婚してくれ!』って求婚されてねぇ。ほら、お父さんって押しがすごいでしょ? つい気圧されて『はい!』って言っちゃったら、そのままこっちの世界で暮らすことになったのよー」
「若い時から全然変わらないんですね、お義父さん……」
「でね、2年くらいは普通に過ごして仁志さんを身籠ったのよ。ただ、出産するときに私の体内の魔力をほとんど使い果たしちゃったみたいで、ひどく衰弱しちゃってね……。ほら、こっちの世界って空気中の魔力がすごく薄いでしょう? 全然魔力が回復しなかったから魔界に戻ったのよ」
セイランは少し切なそうに遠い目をした後、真剣な眼差しでカグヤを見つめた。
「私はお父さんや幼い仁志さんと、一番一緒にいたかった時期に側にいてあげられなかったから……。だからカグヤさんは、元の場所へ戻ったりしないで、仁志さんと誠司くんの側にずっと一緒にいてあげてね」
セイランがテーブル越しに、カグヤの手を温かく優しく包み込む。
「は、はい……お義母さん……!」
カグヤは強き頷き、二人はお互いに微笑みながら手を握り合った。




