第64話 雰囲気は少し苦手だが、案外いい奴そうだな
仁志がカウンターで気だるそうに煙草を吸っていると、ガラリと引き戸が開かれた。
すると次の瞬間、入口からコロコロコロ……と鮮やかなレッドカーペットが転がってきて、店の床に真っ直ぐ敷かれた。
その光景を見て、仁志は動揺した。
「ま、まさか……また来たのか……!?」
仁志は慌てて煙草を灰皿で揉み消した。
すると、以前高額なアクセサリーを買っていった、貴族のような豪華なドレスに縦ロールの髪を揺らしたお嬢様が、執事を連れ立って優雅に入ってきた。
「ご機嫌よう、店主さん。今日はちょっとお伺いしたいことがあって寄らせてもらったわ」
「い、いらっしゃいませ……。お尋ねになりたいこととは、一体何でしょうか……?」
仁志は引きつった笑顔を浮かべながら尋ねる。
「先日、我が家にお呼びした宝石商に見せましたら、こちらで買ったどの宝石も『地球に存在しない未知の宝石だ』と言われましたの——これはいったい、どういうことかしら?」
お嬢様は口元にパッと扇子をあてがいながら、冷ややかな視線で仁志を見つめた。
仁志は前回、「他では扱っていない珍しい石」とだけ言い、異世界や宇宙の宝石だということは伏せて売っていた。
(ヤバいな……前回の200万円が返金なんてことになったら……。……仕方ない正直に話すか)
仁志は少し考えた後、意を決してお嬢様に打ち明けた。
「実はですね……うちの店は異世界や宇宙の品々を扱ってまして……。先日お売りした宝石も、異世界や宇宙の宝石なんですよ……」
「異世界? 宇宙の宝石……?」
お嬢様が眉をほんの少しひそめる。
「はい……。信じられないなら、返金させていただきますが……」
仁志はお嬢様の顔色を窺いながら、不安げに聞いた。
「……ふふっ。 異世界や宇宙の宝石だなんて、おとぎ話みたいで素敵じゃない。返金なんて野暮なことはいたしませんわ」
お嬢様が目元を緩め、扇子をパチンと閉じた。
仁志は「助かった……」と胸を撫でおろす。
「お嬢様、こちらならご所望の品があるかと……」
後ろに控えていた執事がお嬢様の耳元で静かに耳打ちする。
「そうね。店主さん、今我が家の応接室に飾る西洋の全身鎧を探しているのだけれど、何か良さそうなものは置いてあるかしら?」
「鎧なら、山程ありますよ。ちょいとお待ちを」
仁志がホログラム画面を呼び出し操作すると、店の床がスライドして開き、古い格式ある西洋鎧から、禍々しい暗黒のオーラを纏った鎧まで、ズラリと全身鎧がせり上がってきた。
「 異世界や宇宙の品を扱っているというのは、あながち嘘ではなさそうね」
お嬢様は並んだ鎧を一つ一つ吟味し始める。
そして、全体が純白に輝き、羽根の装飾が施された、どこか神聖な雰囲気を纏った鎧の前で足を止めた。
「こちらの白い鎧は、どのような由来のものかしら?」
「それは異世界の聖騎士団の鎧で、向こうの聖女が祝福の祈りを込めたやつですね」
「聖女の祈り……」
お嬢様は鎧から微かに放たれている、淡い光をジッと見つめた。
「わたくしにピッタリね。こちらをいただくわ。おいくらかしら?」
「まあ鎧の類はこっちだと需要が全くないんで……5万円で……」
仁志は悔しそうな顔で答えた。
「あら、随分とお安いのね。でしたら他の鎧もまとめて買い取っていこうかしら?」
「お嬢様……」
執事が控えめに釘を刺す。
「そうね。あまり鎧ばかり屋敷にあっても仕方ありませんわね。……お札の帯を切って出すのはあまり美しくありませんから、今回はクレジット決済にしますわ。爺」
「はい、お嬢様」
執事は鞄から金属製でブラックのクレジットカードを取り出すと、丁寧に両手で仁志に手渡した。
「ありがとうございます」
仁志は一礼しながら受け取り、カウンターの端末で決済処理を済ませ、カードを執事へと返した。
「わたくし、このお店が気に入りましたわ。店主さん、あなたのお名前は?」
「只野 仁志です」
「仁志さんね。わたくしは可憐ですわ。また近いうちに寄らせていただきます」
「可憐さん……できればこの店のことは、外ではあまり言わないで貰えると助かるんだが……」
仁志がバツの悪そうな顔をしながらお願いする。
「うふふ。ご安心なさって、わたくし、秘め事は得意でしてよ。それでは御機嫌よう」
お嬢様・可憐は優雅に踵を返すと、出口へと向かった。
執事が先回りしてガラガラと引き戸を開ける。
二人はそのまま外へ出て行き、しばらくして執事だけが再び店内に入ってきた。
執事は購入した鎧を手際よく持ち出すと、床に敷かれていたレッドカーペットをくるくると綺麗に巻き取った。
そして仁志に向かって丁寧にお辞儀をすると、静かに引き戸を閉めて去っていった。
「毎度ありー……」
仁志はふーっと一息ついた後、煙草を取り出して火をつけ、ポツリと呟いた。
「……雰囲気は少し苦手だが、案外いい奴そうだな、あのお嬢様」




