第62話 未来の技術すぎて参考にはならんと思うがね
仁志がカウンターでゆったりと煙草を吸っていると、ガラリと勢いよく引き戸が開かれた。
「ここが噂のリサイクルショップ『ただの』か!?」
ボサボサの髪にヒビの入った眼鏡、所々が焦げ付いたボロボロの白衣を着た研究者風の男が、店内中に大声を上げながら入ってきた。
「……そうだよ」
仁志はやる気のない声で答える。
「そうか! 裏サイトで噂には聞いていたが、ついに都市伝説の店に辿り着けたぞ! これで、これで私の長年の研究がついに実を結ぶ時が来たのだ!!」
研究者風の男は両手を天に向けて高々と突き上げ、歓喜の叫びをあげる。
「お客さん、もうちょっと声を小さくしてもらえるかな……。で、何かお探しで?」
「うむ! 私は『物質転送装置』の研究をしているのだが、どうしても実用化への壁が越えられなくてな……。この店には未来技術の品々があると聞き、研究の参考にするため探していたのだよ!」
「物質転送ね……。あるにはあるが、未来の技術すぎて参考にはならんと思うがね……」
仁志は空中に手をかざし、ホログラム画面を開いてデータベースの在庫を検索し始める。
「なっ……空中へのホログラム画面での端末操作だと!? そんなオーバーテクノロジーまで平然と使っているのか!」
「まあ俺も詳しいことは分かってないがね。——あっ、良さそうなのがあったぞ」
仁志がホログラム画面を操作すると、店舗の床の一部がスライドして開き、人の背丈ほどのカプセル型ポッドが2つ、太いケーブルで連結された仰々しい機械がせり上がってきた。
「おぉ! これは一体どういった物なんだ、店主よ!?」
研究者風の男は目をキラキラと輝かせ、ポッドの表面に顔を近づけ質問した。
「説明見ると『ポッドからポッドへ物質を空間転送。なお、生物を転送する際は必ず1種までにしてください。※同時に複数の異種生物が入ると混ざり合う危険性があります』って書いてあるな……」
機械には赤い文字で『生物転送注意』と大きく書かれている。
「素晴らしい! この機械の構造と原理を解明できれば、私の研究は飛躍的に向上するぞ! 店主よ、ぜひこれを私に譲ってくれないか!?」
「まあ、構わないよ。10万円でどうだい?」
「じゅ、10万円!? こんな超技術がそんな破格でいいのか!? 買った!」
男は興奮で手を震わせながら、財布から10万円を取り出してカウンターに叩きつけた。
「毎度ありー。大きいから、住所を書いてくれればうちの店のワープシステムで家まで送るよ」
「ワ、ワープ転送技術まで完全に確立されているというのか!?」
「俺も原理は知らないし、未来の技術すぎて現代の科学力じゃ再現なんてできないと思うよ」
研究者風の男は紙に急いで自分の研究所の住所を書き殴ると、胸を張って言った。
「店主よ! いつの日か、私がこの技術を応用してノーベル賞を受賞するのを楽しみにしていてくれ!」
大声で店から出て行く研究者風の男の背中に、仁志が声をかける。
「あいよ。取扱説明書はしっかり読んでくれよな」
男が出て行ったのを見届けると、仁志は煙草に火をつけ呟いた。
「それにしても、生物が複数種だと混ざり合うって……」
仁志は頭の中で生物が混ざった姿を想像した。
「まぁ、考えないでおこう……。俺は注意はしたからな。それに、獣人も昆虫人間も、異世界や宇宙じゃ普通にいるからな」




