第58話 まともな客が来やしねえな
ここは商店街の路地裏にひっそりと佇む、リサイクルショップ『ただの』。
様々な客が時代や世界を超えて、この不思議な店へとやって来る。
「いらっしゃい」
今日も店主の仁志が、相変わらず気怠そうに煙草をくゆらせながら店番をしている。
ガラガラと引き戸を開けてやってきたのは、妖怪・ぬらりひょんだった。
「仁志、平治はおるか?」
「親父なら、近所の公園でじいさん連中と将棋でもやってんじゃないかな」
「そうか! ならば魔界に長くおって将棋の腕が鈍っていないか、わしが直々に手ほどきしてやるかな」
ぬらりひょんはそのまま出て行くかと思いきや、ツカツカとカウンターの前まで歩み寄ってきた。
「仁志……。一本だけ煙草をくれんか」
「はいはい……」
仁志は呆れ顔で煙草の箱から一本抜き取ると、ぬらりひょんに差し出した。
「すまんな。この前渡したわしのキセルは、そのうち必ず買い戻しに来るからの、人手に売るんじゃないぞ」
「はいはい、分かってるよ……」
ぬらりひょんは貰った煙草を満足そうに咥えると、公園へ向かって出て行った。
ぬらりひょんが去ってしばらくすると、再びガラガラと店の引き戸が開かれた。
「仁志! 平治はおるか? 久々に帰ってきたと聞いてな、一緒に酒でも飲もうと思ってな!」
入ってきたのは、商店街の裏路地にある小さな祠の神様だった。
その片手には、一升瓶の日本酒が握りしめられていた。
「真っ昼間から飲むのかよ、神さん……。親父なら公園で将棋やってると思うよ。ぬらりひょんさんもさっき来て、親父を探しに公園へ行ったぞ」
「おお、そうか! 久々に三人で飲もうかの! じゃあの、仁志!」
祠の神様はご機嫌な千鳥足で、楽しそうに店を出て行った。
神様が去って間もなく、次に引き戸を開けて入ってきたのは、商店街で惣菜屋を営んでいる田中のばあさんだった。
「仁志、セイランさんが帰って来たんでしょ? 今、上にいるかい?」
「あぁ、おふくろならカグヤと二人で買い物に行ったよ。……ていうか、ばあさん、うちのおふくろのこと知ってたのか?」
仁志が目を丸くして尋ねる。
「そりゃあ、知ってるよ。あんたが生まれる前に何年かこの店で一緒に住んでたんだからねぇ。あんたを産んだ後に体調を壊して、実国へ帰ったとしか聞いてないけどさ」
田中のばあさんはカウンターまでやって来ると、手にしてきた紙袋を仁志に向かって差し出した。
「これ、うちの揚げたての特製コロッケ。セイランさんに渡しておいてちょうだい。『また近いうちにお茶しましょ』って伝えておくれ」
仁志が受け取ると、田中のばあさんは「じゃあねぇ」と手を振って、元気な足取りで店を出て行った。
仁志はカウンターの上でコロッケの袋を見つめながら、ため息をついて呟いた。
「はぁ……今日は親父とおふくろ目当ての奴らばっかで、まともな客が来やしねえな……」
ここは商店街の路地裏にひっそりと佇む、リサイクルショップ『ただの』。
様々な客が時代や世界を超えて、この不思議な店へとやって来る?




