第57話 誰から見てもお前は普通の子だよ
平治とセイランを交えて賑やかに夕飯を食べた、翌朝——。
「おはようカグヤ。誠司はまだ寝てるのか?」
「ううん……頭が痛いから今日は学校を休むって言ってて……」
カグヤが眉を下げ、心配そうな顔で答える。
「あいつは真面目だから、夕べの親父たちの話を聞いて考えすぎたんだな……。ちょっと俺から話してみるか」
仁志はそう言うと、誠司の部屋のドアをコンコンと軽くノックした。
「誠司、大丈夫か? 入るぞ」
仁志が静かに引き戸を開けて部屋に入ると、誠司は布団を被り、仁志に背を向けたままベッドの中で丸くなっていた。
「……」
「誠司。昨日の親父とおふくろの話を聞いて、色々と考え過ぎたんだろ?」
仁志はベッドの横の床にそのまま胡座をかいて座った。
「……うん。おばあちゃんが本当に魔族なんだって分かったらさ……自分の中にその血が流れてるんだって、『普通』じゃないんだって思ったら怖くなっちゃって……」
「大丈夫だ。お前は十分すぎるくらい普通だよ。学校のクラスにも、外国人のハーフやクォーターの子いるだろ? それと変わらんさ」
「……魔族のクォーターと外国人のハーフじゃ、次元が全然違うでしょ……」
「そうか? 店をやってると普通に魔族や宇宙人がやって来るが、見た目や文化の違いはあるが中身は俺らと大して変わらんぞ」
仁志は誠司を見ながら話を続ける。
「それに、お前の身体に羽根が生えたり、魔法が使えたりするか?」
「……ない。運動も勉強も、クラスの真ん中より少し上くらいで……いたって地味だし……」
「それなら全然普通じゃないか。まあ『普通』なんて基準は人それぞれだから一概には言えんが、誰から見てもお前は普通の子だよ。もし『お前は普通じゃない!』なんて言ってくる奴がいたら、勝手に言わせておけばいいさ」
誠司は布団を少し下げ、身体の向きを変えてじっと仁志の顔を見つめた。
「お父さんは……おばあちゃんが魔族だって知った時、どう思ったの?」
「そりゃ驚いたけど、魔族ってことより『親父に死んだって聞かされてたのに生きてた』ってことの方が遥かに衝撃だったな……」
仁志が苦笑しながら遠い目をする。
「まあ俺の場合、子供の頃は店の2階で育ったから、異世界の客にも見慣れてたしな。……お前も店番してみるか?色んな客が来るから、おもしろいぞ」
「……うーん、考えとく」
誠司は小さくボソッと呟いた。
「よし、気が向いたら店に顔を出しに来い。今日は余計なことは考えずにゆっくり休め」
仁志が膝を叩いて立ち上がり、部屋から出て行こうとすると、ベッドの中から誠司がぽつりと声をかけた。
「……お父さん、最後に一つだけ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「……お母さんは、普通の人だよね……?」
「……前に話したかもしれんが、カグヤとは大学で出会ったんだ。両親は俺と付き合う前に亡くなってたから直接会ってはいないが、ちゃんと婚姻届を出す時に戸籍も見たぞ」
「……そっか、よかった。たまにお母さん、変なこと言ったり不思議な行動するからちょっと心配になっちゃって……」
誠司がホッとしたような表情を見せる。
(まあ……一度も墓参りに連れて行って貰ったこともないし、戸籍の欄に『養子縁組』って書いてあったんだがな……)
仁志はその事を誠司には言わず、自分の心の中にそっとしまい込んだ。




