第56話 それ以上考えると頭が痛くなるぞ
「カグヤさん、誠司、お邪魔するよ!」
平治とセイランが、仁志に連れられて彼らの住むマンションへとやってきた。
「ようこそ、お義父さん。それに……お義母さん。仁志の妻のカグヤです。よろしくお願いします」
カグヤが少し緊張した面持ちで、セイランに向かって丁寧にお辞儀をする。
「あらあら、お父さんに聞いてた通り綺麗な方ね! 平治の妻のセイランです。これからよろしくね、カグヤさん」
セイランも上品に目元を緩め、お辞儀を返す。
「ほら、誠司もおばあちゃんにちゃんと挨拶しなさい」
カグヤが恐る恐る様子を伺っていた誠司の背中を、優しく前へと促す。
「……誠司です。よろしくお願いします……おばあちゃん」
誠司が戸惑いを隠せない様子で挨拶した。
「あらあらまぁまぁ! 誠司くん、あなたのおばあちゃんですよ。こんなに大きくて可愛い孫がいるなんて、おばあちゃん嬉しいわ」
セイランがニコニコと嬉しそうに目尻を下げ、誠司の頭を優しく撫でる。
誠司は照れくさそうに少し肩をすくめた。
「すまんなカグヤ。親父たちが急に帰って来て」
「ううん、大丈夫よ。夕飯の用意もしてありますから、どうぞ中へ!」
カグヤの案内され、賑やかに全員がダイニングへと向かった。
「母さんも含めて、只野家が勢揃いしたな! よし、とりあえず——」
「「カンパーイ!!」」
平治の音頭で全員が杯を合わせ、只野家三世代が揃う賑やかな夕宴が始まった。
「あら? この煮物、すっごく美味しいわねー!」
セイランが人参と筍の煮物を口にし、感嘆の声をあげる。
「私の得意料理なんですよ。調味料も月——特別なお店から取り寄せているんです!」
カグヤが嬉しそうに答える。
「いやー! カグヤさんの料理はどれも絶品だな! 酒が進む進む!」
「あんまり飲み過ぎんなよ、親父」
仁志が平治を呆れた顔で見ながら、ビールをゴクリと一口あおぐ。
「……」
そんな中、誠司はずっとジーッとセイランの顔を見つめていた。
「どうしたの、誠司くん? おばあちゃんの顔に何か付いてるかしら?」
セイランが視線に気づき、優しく問いかける。
「おばあちゃんが『魔族』だって聞いてたから……。見た目は外人さんみたいだけど、あんまり魔族っぽいところがないなって……」
「ふふ、じゃあ少しだけ魔族っぽいところを見せちゃおうかしら?」
セイランは立ち上がるとくるりと背を向け、着ていた洋服の背中のファスナーを少し下ろした。
すると——彼女の背中からニョキニョキと美しい羽が生えてきて、バサリと鮮やかな黄色い大きな翼を広げた。
「綺麗な翼じゃろ? わしが、母さんと初めて会った時は『天使が降りてきた……』と見惚れたからのう」
「お父さん、私は天使じゃなくて魔族ですよ?」
「ガハハ! そうじゃな!」
平治とセイランが仲良く笑い合う。
「ほ、本当に魔族なんだ……」
あまりの光景に、誠司は口が開いたまま塞がらない。
「こっちでは翼を隠して過ごしてるんだけど、たまに背中がムズムズするのよねー」
セイランは翼をすっと仕舞い込むと、何事もなかったかのように席についた。
「お義母さん、その気持ちすごく分かります! 私も耳を隠していると、たまにすごく頭が痒くなるときがあるんです」
「あら、カグヤさんもそうなの? 大変よねぇ」
カグヤとセイランがなぜか意気投合して盛り上がっている。
「……お父さん。うちの家族ってヤバいの?」
「……誠司。気にし始めると、頭が痛くなるぞ」
仁志が遠い目をしながら、ボソッと誠司に答える。
「誠司、気にする必要はないぞ! 只野家の血があまりにも濃すぎるからな、どんな異種族と子をなしても普通の人間と変わらん! 先祖には鶴と結婚した人もいるらしいしな!」
平治が酒杯を掲げてガハハと大笑いする。
「お父さん……うちの家系ってヤバいね……」
「それ以上考えると頭が痛くなるぞ、誠司」
呆然と引きつった顔をする誠司の横で、仁志は諦めたようにグラスのビールを飲み干した。




