第55話 それに、おふくろは魔族だ
「……2500円だな」
「2500円ですね! 今、小銭出しますからねー」
今日は常連客の魔導師マーニアが、いつものように安物を買いに来ていた。
マーニアが財布からジャラジャラと小銭を出そうとした、その時——。
「仁志ー! 帰ったぞー!」
ガラリと勢いよく引き戸が開き、父・平治が姿を現した。
「あれ!? 平治さん、お久しぶりです!」
マーニアが突然の登場に驚きつつも、お辞儀をして挨拶する。
「おお、マーニアくん! いつも当店のご利用ありがとうな!」
平治もマーニアに向かって豪快に手を振って答えた。
「『帰ったよ』じゃねえよ……何の連絡もなしに、2週間以上も一体どこ行ってたんだよ? おふくろまで連れ回して……」
仁志がカウンターでため息をつきながら文句を言う。
「ガハハ! 最初は大阪と京都に行ってな……それから足を延ばして広島と博多に行って、最後に沖縄にも行ってきたぞ!」
平治が大笑いすると、その背後から『バカンスに行ってました』と言わんばかりのサマードレスを着た魔族の母・セイランがひょっこりと顔を出した。
「仁志さん、ただいまー。ほら、私がこっちの世界へ来るのも久しぶりじゃない?大阪と京都だけのつもりが、気づいたら沖縄まで行っちゃってたのよー。どこも楽しかったわー、ねっ、お父さん」
「……あの平治さん、そちらの女性の方は、どなたですか?」
マーニアが不思議そうに首を傾げる。
「おお、紹介しよう! わしの妻で、仁志の母親のセイランだ!」
「マーニアさん、はじめまして。いつも仁志とお父さんがお世話になっております」
セイランが上品に目元を緩め、マーニアに向かってお辞儀をする。
「えっ、仁志さんのお母様でしたか! こちらこそ、仁志さんにはいつも掘り出し物を安く譲っていただいて、お世話になっております!」
マーニアも慌てて深くお辞儀を返す。
「……何でお前が、うちのカグヤや誠司より先におふくろに挨拶してんだよ」
仁志がなんとも言えない呆れた顔でマーニアを見つめる。
「よし! とりあえず2階で荷物の整理をしてくるから、カグヤさんに『今夜、行くからよろしく』と伝えておいてくれ!」
平治はお土産と大きなスーツケースを両手に抱え、バタバタと2階の住居スペースへと階段を上がって行った。
「仁志さん、お土産たくさん買ってきたから楽しみにしててね。ここの2階へ上がるのも久しぶりねー。あらあら、懐かしいわー」
と言いながら、セイランも嬉しそうに平治の後に続いて上がって行ってしまった。
「はぁ……」
仁志が大きなため息をつく。
「……まるで嵐のようでしたね。平治さんが魔界から戻ってきた時に一度会いましたけど、仁志さんにもちゃんとお母さんがいたんですね……」
マーニアが眼鏡の位置を指で直しながら言った。
「そりゃ、いるだろ。まぁ……俺が生まれた直後に死んだって、昔親父から聞かされてたんだけどな」
「え?」
「それに、おふくろは魔族だ」
「……え? 魔族……?」
マーニアは仁志からサラッと言われた内容を、しばらく脳が処理できずにその場で固まった。




