第54話 服を着ていれば大体見当がつくんだが
「親父たち旅行に行ったっきり全然帰って来ねえな……」
仁志はカウンターに頬杖をつきながらボヤいた。
「仁志から『両親が帰ってきた』って聞いてからもう2週間くらい経つか? また2年くらい戻って来なかったりしてな!」
ホログラム画面の中で、スカイが手足をバタつかせてケタケタと笑う。
「ありえそうだな……」
仁志は深々とため息をついた。
二人が呑気に会話を交わしていると、店の引き戸がガラガラと開いた。
「客が来たから切るぞ。じゃあな、スカイ」
「あいよ! じゃあな仁志!」
仁志は指先でホログラム画面を閉じた。
「いらっしゃい」
入ってきた客は、顔つきがまるでキツネのようで、全身がフサフサの毛で覆われ、後ろには立派な尻尾が生えている女獣人のようだった。
(獣人か……。服を着てないな……どこの世界の獣人だ?)
そう、ひと口に『獣人』と言っても、異世界の獣人、獣人型の宇宙人、化け狐のように動物が化けているタイプ、動物との合成人間など、多種多様に渡っていた。
仁志は密かに、店に獣人の客がやって来ると「どのタイプの獣人か」予想して当てるのを趣味にしていた。
(服を着ていれば大体見当がつくんだがな……。こういう全身が毛で覆われてるタイプだと、服を着ない文化の奴らも多いんだよな……)
革や布の民族衣装なら異世界人、未来的なスーツなら宇宙人か合成人間と仁志は分類していた。
(棚の商品はどうだ……?)
獣人が眺めている棚を見ると、普通の品の中に、怪しい呪物や未来の機械類が混ざっている。
(これは買い物じゃなくて、何かを売りに来たパターンだな……)
仁志がそうアタリをつけた瞬間、獣人がトコトコとカウンターへやって来た。
「すみませーん。ここで、GPS機器の買い取りってやってます?」
(GPSってことは……機械が発展してるから獣人型宇宙人だな!)
仁志は予想しながら答えた。
「ああ、いいよ。買い取る品を見せてもらえるかい?」
仁志がそう言うと、獣人は自分の胸元にあるボタンをポチッと押した。
すると、胸がパカリと観音開きになり、中から精巧でメカメカしい内部パーツと配線が露出した。
「あぁ……獣人型の『アンドロイド』か……」
予想が外れ、仁志はガクッと肩を落とした。
「……え? アンドロイドってそんなに珍しいですか?」
「いや、すまん何でもない。……で、中に組み込まれてるそのGPS、外して買い取っちゃっていいのか?」
仁志が露出した機械の内部を覗き込みながら尋ねる。
「私の元のマスターが、ちょっと束縛の激しいヤバい人だから逃げ出してきたの……。でもアンドロイドの基本プログラムのせいで、自分自身の意思じゃ取り外せないのよ。だからお願い、外して!」
獣人型アンドロイドが必死に手を合わせて仁志に頼み込んできた。
「……事情は分かった。よし、取り外すぞ」
仁志がメカの奥深くに指を入れて探ると、ピコピコと赤く点滅しているGPSモジュールを取り外した。
「やったー! ありがとう!」
「一応、中古パーツとして買い取るが、代金はどうする?」
獣人型アンドロイドが自分の時代を伝えると、仁志はホログラム画面で換算し、その時代の通貨をレジから出して支払った。
「毎度ありー。もし、元のマスターが探しに来たら、適当に誤魔化してあしらっておくよ」
「ありがとうございます!」
獣人型アンドロイドは嬉しそうに店内から出て行った。
ガラガラと引き戸が閉まるのを見届け、仁志はカウンターに置かれたGPSモジュールを指先で転がしながら呟いた。
「……いっそのこと、親父の身体にこのGPS埋め込んでやろうか……?」




