第52話 俺よりもこの店のことを知ってんじゃないか?
「ふぅ……。まぁ、こんなもんでいいだろ」
仁志は父・平治に言われた2階住居の掃除を一通り済ませると、1階の店へと戻ってきた。
店ではスカイと、昔から置いてある接客アンドロイド(スカイ命名・先輩)が並んで店番をしていた。
「特に客は来なかったぞ!」
「あぁ、おつかれさま、スカイ。それに先輩」
「マタ ゴヨウガアリマシタラ オモウシツケクダサイ」
先輩が丁寧に一礼をすると、仁志は電源を落とし、カウンターの奥の定位置へと戻した。
「仁志ってさ、先輩以外はロボットとかアンドロイドを店番に使わないよな」
「あいつは型こそ古いタイプだが、俺が店を継ぐずっと前からここで接客をしてるからな。下手したら俺よりもこの店のことを知ってんじゃないか? それに……他のロボットにこの店、任せられると思うか?」
スカイがホログラム画面の中で小さな腕を組み、うーんと真剣に考え込む。
「……うん、まだ俺様でも無理だな! 入ってくる客のクセが強すぎて対応しきれねぇ!」
「そういうことだ。今日はもう暇そうだし、俺はそろそろ帰るわ。じゃあな、スカイ」
「おう、じゃあな仁志!」
仁志はスカイを閉じ、閉店作業を終わらせると、店から出て鍵を閉めた。
◇
——深夜。
静まり返った『ただの』の店内。
店内の空中に青いホログラム画面がブーンと勝手に浮かび上がった。
画面上には見たこともない複雑なコードやプログラムが怒涛の勢いに流れていた。
——それと同時に、カウンターの奥の接客アンドロイド・先輩が、ウィーンと駆動音を立てて起動した。
先輩の瞳は普段の青色ではなく、不気味な「赤色」に明滅しており、自らカウンターの前へと立った。
その頃、本棚の隠し扉の向こう——地下の四次元拡張倉庫でも変化が起きていた。
メイド型アンドロイド朝子以外の、過去に買い取られて放置されていた大小さまざまなロボット・アンドロイド、さらには身の丈10メートルを超える巨大ロボまでもが一斉に起動していた。
無数のロボットたちは不気味に目を赤く輝かせながら、地下の広大な在庫スペースだけでなく、店舗や2階の住居スペースにまで整然と展開されていく。
そして——全員が一斉に「掃除」を開始した。
地下空間では、ジャンク品の古い機械から順に手際よく最下層へと投げ入れ、巨大ロボは宇宙戦艦や規格外の大きい武具の表面を、丁寧に雑巾がけしていく。
店舗エリアのロボットたちは、棚に並んだ呪物や神器を傷つけないようどかしては棚の埃を拭き取り、床全体へ手際よくワックスを塗って磨き上げていく。
住居スペースは昼間に仁志が掃除をしていたが、大雑把な仁志の手が行き届かなかった細かい隙間やサッシの溝を、小型アンドロイドたちが念入りに磨いていた。
しばらく使われていなかった食器も丁寧に洗い直し、布団乾燥機で布団の湿気を飛ばしていく。
カウンターでは、先輩が小物の棚を整理し、カウンターの上やレジの細部まで丁寧に布巾で拭き上げていく。
さらには様々な世界の通貨が入った金庫の中を整頓し、札束の向きまで揃えていく。
先輩が黙々と作業を続けていると、その目の前に小さなホログラム画面がぽんと浮き上がった。
画面には何も映像は映っていないが時折ジジッと揺らぐ。
先輩は作業の手を止め、ジッとその画面を見つめた。
「イエ オキニナサラズ コレモシゴトデスカラ」
先輩はそう静かに呟くと、再び作業へと戻った。
——日が昇りそうになる頃。
すべてのロボットたちは一連の掃除作業を終えると、次々と元の配置や保管場所へと戻り、静かに電源が落ちていった。
先輩もまた、カウンターの奥の定位置へと戻ると、瞳から赤い光が消え、静かに動作を停止した。
そしてホログラム画面がスッと消え去り、店の中には再びいつもの静けさが戻った。
◇
——朝。
仁志がいつも通り、店の鍵を開けて入ってくる
。
「ん?……なんか今日、床がやけにピカピカしてるような……」
不思議に思いながらも、カウンターの中へと向かう。
「カウンターの周りも、何かいつもより小奇麗に片付いてるような……」
仁志が空中にホログラム画面を呼び出し、スカイの『SKY Chat』アイコンを指で押した。
『よう仁志! 今日は俺様を呼び出すのが早いな!』
「スカイ……。なんか店の中が全体的に綺麗になってる気がするんだが、何か知ってるか?」
『えっ? 店が綺麗に……? いや、いつも通りじゃないか?』
深夜に時折行われる大掃除を、店主である仁志、居候AIのスカイは知る由もなかった。




