第47話 そうか、それは残念だったな
「スカイ。ちょっと、そこのスパナ取ってくれ」
仁志が地下の四次元倉庫で、小型宇宙船の下に潜り込み整備をしていた。
「ボディがないのに、どうやって取れってんだよ!」
空中に浮遊する青いホログラム画面の中で、スカイがちっちゃな手足を振って怒る。
「あぁ、そうだったな」
仁志は宇宙船の下から這い出ると、自分で床に転がっていたスパナを拾い上げた。
「いやー、でもお前がサポートしてくれるから、機械類のメンテナンスがめちゃくちゃ捗るわ。今まで、仕組みも分からず適当にいじって、動かないとすぐジャンク行きにしてたからな」
仁志が再び宇宙船の船底へと潜り込む。
「だろ? なんたって俺様は、未来の優秀なAIスカイ様だからな! 感謝しろよな!」
スカイが画面の中で誇らしげにふんぞり返っていると、『ピンポーン』と来客を知らせるチャイムの音が地下へと響き渡った。
「スカイ。俺はもうちょっとこいつのメンテナンスをしたいから、地上で店番アンドロイドと一緒に、客の相手をしててくれないか?」
「あいよ! 先輩と一緒に接客だな、任せとけ!」
スカイは昔から店に置いてある店番用アンドロイドのことを、親しみを込めて『先輩』と呼んでいた。
「じゃあ、俺様はひと足先に行ってるぜ!」
そう言い残すと、ホログラム画面の中からスカイの姿が消えていった。
◇
「イラッシャイマセ ナニカオサガシデスカ?」
「……不思議な店だな。こんな古い佇まいなのに、接客用のロボットが置いてあるのか……」
店舗に入ってきた眼鏡に白衣姿の男性客が、店番アンドロイドを興味深そうに観察していた。
すると——男性客のすぐ目の前の空中にパッと小さな青いホログラム画面が現れ、スカイが映し出された。
「いらっしゃい! ここはリサイクルショップ『ただの』だよ! あんた、この店は初めてか?」
「うわっ!? びっくりした……! ……君はAIかい? ずいぶん自然に喋るんだね」
男性客は眼鏡の位置を直しながら興味津々に尋ねた。
「ふふん、俺様は未来の最高峰AIスカイ様だからな! 何か探してる商品があるなら、俺様が案内してやるぞ!」
「案内も魅力的だが……良ければ少し、君と話をさせてもらってもいいかい?」
「いいぜ! 暇つぶしなら大歓迎だ!」
「ありがとう。スカイくんは、この店のシステム全般を担っているのかい?」
「そうだ!……と言いたいところだが、違うんだよな。今は居候みたいなもんだな」
スカイは自分がもともと未来のAI玩具で、元の持ち主である青年・ジョンが自分をここに売ろうとした際、店のシステムへハッキングを試み、返り討ちにあって取り込まれた経緯を話して聞かせた。
「……なるほど。おもちゃの枠を超えてそれほどの自我と柔軟性を持っているなんて、本当にすごいなスカイくん」
男性客が研究者らしい眼差しで、感心したように深々と頷く。
「まあ俺様は最初から俺様だけどな! でもまあ、他の有象無象のプログラムよりはすごいけどな!」
スカイが画面の中で再び誇らしげにふんぞり返る。
「……スカイくん。君を買う――いや、私と一緒にうちの研究所に来てもらえないかな?」
「えっ? 俺様を……かい?」
客からのあまりにも突然の申し出に、スカイは一瞬目を丸くして驚いた。
「私はロボット開発をしている研究者でね。君ほどの高度なAIが来てくれたら、一気に技術開発が進むと思うんだ。そうしたら君のために、新しいボディも用意できると思うんだが……どうかな?」
「新しい……ボディか……」
スカイは画面の中で小さな腕を組み、しばし真剣に考え込んだ。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……う〜ん、やめとくよ。いつかジョンが迎えに来るだろうし、それに……ここには俺様がサポートしてやらないといけないダメ店主もいるからな!」
スカイは画面の中で、どこか誇らしげにニカッと笑顔を浮かべた。
「……そうか。残念だよ」
男性客はポツリと呟くと、諦めたように出口へと向かった。
そして引き戸の手前で一度足を止め、スカイの方を振返った。
「またこの店に来た時に、もし気が変わっていたら遠慮なく言ってほしい。いつでも歓迎するよ」
「おう! ありがとな」
男性客は静かに引き戸を滑らせ、店の外へと出て行った。
「アリガトウゴザイマシタ マタノゴライテンヲオマチシテオリマス」
カタカタと音を立てる接客アンドロイドの声が店内に響いた。
◇
——地下倉庫の宇宙船の下で、仁志はその一部始終をホログラムで見ていた。
仁志は少しだけ嬉しそうに口元を緩めると、店内の映像表示を消し、手元のメンテナンス作業へと戻った。
すると、画面にパッとスカイが表示された。
『おい仁志! 欲しいものが見つからないって、せっかくの客が帰っちゃったぞ!』
「そうか、それは残念だったな……。それよりさスカイ、そこのプラスドライバー取ってくれるか?」
『だから! ボディがないのにどうやって手で取るんだよッ!!』
二人の楽しそうな軽口の掛け合いが、静かな地下倉庫に響き渡った。




