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第46話 案外わがままだな、あんた……

店の引き戸が開くと、皮膚が緑がかった鱗のような爬虫類の質感で、口が縦に大きく裂け、腰には皮の腰蓑、肩にはハイテクなキャノン、手にはメカメカしい槍を持った客が、トボトボと情けない足取りで入ってきた。


「いらっしゃい」


仁志がいつも通り声をかけると、客はすっかり意気消沈した様子でカウンターの前へとやってきた。


「あのう……すみません。ここに、何か強そうな生物の体の一部とかって置いてありますかね……?」


「……あいにく、うちはナマモノは扱ってないんだよ」


「そうですか……はぁ……」


客は深々とため息をつき、大きな肩を落とした。


「何か事情がありそうだな。どうしたんだい?」


あまりにも困り果てた様子の宇宙人を見かねて、仁志が新聞を置いて尋ねた。


「……聞いてくれます? 僕の種族って成人を迎えると、別の星の危険な猛獣を狩って持ち帰らなきゃいけないっていう、すごく古い風習があって……。今回、僕が指定された試練の星がこの地球だったんですけど……聞いてた巨大なトカゲの『恐竜』?とかいうやつが、全然いなくてですね……」


「あー……恐竜は大昔に絶滅してるからな……。あんた、凄そうな武器持ってるんだから、今なら象とかクジラとか、大きめの生き物でも狩って帰ればいいんじゃないか?」


「いや、そもそも根本的な話……僕、生き物を殺すのにすごく抵抗がありまして……」


身の丈2メートルを超える凶悪なビジュアルをした客が、もじもじと指先を合わせながら気弱に明かした。


「あんたの種族だと、その性格は大変そうだな……。いっそのこと、帰らずにどっか別の星にでも住めばいいんじゃないか?」


「星に恋人を残してきてるんで、何としてでも試練を達成して戻らないといけないんです……!」


「恋人を残してきてるのか……。それじゃあ逃げるわけにはいかんか。よし、じゃあうちの地下にあるもので、何か代わりに使えそうな物がないか一緒に見てみるか?」


「えっ、本当ですか!? ありがとうございます……!」


仁志は客を連れて、本棚の隠し扉から地下の四次元倉庫へと案内した。


◇


「まずはこれ。ドラゴンの牙」


仁志は人間の頭ほどもある巨大で鋭利な竜の牙を見せる。


「……これって、地球に生き物の部位ですかね……?」


「……違うな。異世界のやつだ。じゃあ、この恐竜の骨格標本は?」


仁志は巨大な肉食恐竜の骨格標本を見せる。


「う〜ん……今回地球に来て恐竜がもういないのは分かっちゃいましたからね……。後でバレて文句言われるのも嫌だしなぁ……」


「案外わがままだな、あんた……。他に何かあったか……?」


仁志はホログラム画面を開き、キーワードに「地球」「爬虫類」と入力して在庫データを検索する。


「……ん? これなんてちょうどいいんじゃないか?」


仁志は客と一緒に、倉庫の奥にある商品の保管エリアへと移動した。


——そこにあったのは、体長3メートル以上もある巨大なワニの剥製だった。


「これなら、今も実在する生き物だし、見た目も恐竜みたいで様になるんじゃないか?」


客はワニの剥製に駆け寄ると、目を輝かせてぐるりと周りを回り、くまなく吟味した。


「恐竜よりはちょっと小さいですけど……これなら『猛獣を狩ってきた』って言っても押し通せそうです! ありがとうございます!」


「大丈夫そうなら良かったよ。で、支払いはどうする?」


「地球の文明がこんなに発達してるなんて知らなかったんで、現金を用意してなくて……代わりにこの槍と交換はどうですか? 僕には、もう武器は必要ないんで」


客は手に持っていたメカメカしい槍を差し出した。

仁志はその槍を検分して頷いた。


「これで構わないよ。で、この剥製はどうやって持って帰る? 宇宙船の座標を教えてくれれば、転送してやるが」


「あぁ、これくらいならそのまま担いで持って帰りますよ」


客は軽々とワニの剥製を担ぎ上げ、肩に背負ってみせた。


「ところで、この槍はどうやって使うんだ?」


「あ、ここの柄のボタンを押すと先端から高出力の電磁サーベルが展開して、こっちのダイヤルを回すとですね——」


二人は槍の仕様について楽しそうに会話を交わしながら、店へと戻っていった。


◇


「いやー、本当に助かりました。これで胸を張って帰れます!」


「よかったな。これでまた恋人にも会えそうで


「はい! ありがとうございました、店主さん! それじゃあ!」


「毎度ありー」


客はワニの剥製をガッシリと背負いながら、外へと出て行った。

仁志は受け取ったメカメカしい槍を手の中でクルリと回しながら、ポツリと呟いた。


「これだけ高度な武器を作れるくらい文明が発展してんのに、なんで未だに猛獣を狩るなんて風習が残ってるんだか……」


仁志は何気なく手元のボタンを押し、シャキーンッ!!と電磁サーベルを出して見た。

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