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第42話 もう俺は限界だ……

「どうしたもんかな……」


プスプスと黒い煙を上げる謎の機械の前で立ち尽くしている仁志の姿は、肌は青色で、耳の先がピンと尖り、毛のない頭部には先端が丸い触角が2本と生えた姿になっていた。


20分前——。


「すみませーん。買い取りをお願いします!」


ガラガラと引き戸が開き、青い顔の宇宙人が台車に大きな機械を乗せて入ってきた。


「いらっしゃい。買い取るのはその機械かい?」


仁志はカウンターから出てくると、台車に乗っている機械を覗き込んだ。


「ちょっと型が古いんですけど『ボディチェンジマシーン』です」


「へぇ、どんな機能があるんだい?」


「ここのボタンを押すとですね——」


宇宙人が本体の中央にある大きめの赤いボタンを指差す。


「ふんふん、このボタンを押すと……あっ」


仁志はボタンに軽く指先で触れたつもりだったが、思いのほかボタンがゆるく、深く押し込まれてしまった。


「ビビビビビッ!!!!」


マシーンかレーザー光線が放たれ、仁志と宇宙人の二人を包み込む。


「「ぎゃー!!??」」


光が収まり、仁志がパチパチさせながら目を開けると、目の前に——普段着の自分(仁志)が立っていた。


「……ボタンを押すと、近くにいる生物の意識がそのまま入れ替わります」


目の前の『自分』が困り顔でそう言うと、プスンプスンと黒煙を立てながら機械が静かになった。


現在——。


「あちゃー……内部の回路が完全にショートして壊れてるな」


自分の顔をした宇宙人が、焦げた機械の部品を覗き込みながらボソッと呟いた。


「知らない機械を買い取る時は細心の注意を払ってたんだが、俺の手が滑ったせいですまん……」


「いえ、自分も元々機械の調子が悪いのを知ってて売りに来たんで……気にしないでください」


「どうする? うちの地下倉庫に入れ替わり系の怪しい道具があるから、そっちを使って元に戻るか?」


宇宙人は作業の手を止め、うーんと腕を組んで思案した。


「別の方法で戻ると、元に戻った時に意識や記憶が混ざる危険があるんで……まずはこの機械を自分で直せるか試してみますよ」


「そうか、わかった。直らなさそうなら言ってくれ」


仁志はそう言うと、何気なくカウンターに置いてあった煙草を取り出し火をつけようとした。


「あっ!! 俺の身体でそんな原始的な物、吸わないでくださいよ!!」


宇宙人が慌てて注意する。


「……あ、すまん。ついクセで……」


仁志は渋々と煙草を箱にしまい、椅子に腰掛けた。


――それから2時間。


ひたすら修理を続けている宇宙人に、仁志は冷たいお茶を差し出した。


「ちょっと休憩したらどうだい?」


「あ、ありがとうございます」


宇宙人は額の汗を拭うと、お茶を飲んで一息ついた。


「そう言えば、あんた名前はなんて言うんだい? 俺は仁志って言うんだ」


「自分はコロッピです。コロニーでは宇宙船の整備士やってます」


「そうか。よろしくな、コロッピ」


二人はお互いの身体のまま、固い握手を交わした。


「コロッピ、必要な予備の部品があったら言ってくれ。地下から使えそうなのを探してくるからさ。あと、俺も普段から機械類のメンテナンスはよくやるから交代しながらやろう。それと——」


仁志は空中にホログラム画面を開くと、『SKY Chat』のアイコンを押した。


『よぉ仁志! ……って、誰だお前!? 』


画面内に現れたスカイが、目の前の青い顔をした仁志を見て困惑の声を上げる。


「このAIのスカイがサポートするから、協力して頑張ってみてくれ」


「わかりました! 頑張って直してみます!」


こうして、二人は修理作業を再開した。


——そして、すっかり夜も更けた深夜。


「……よしッ! これで回路が繋がりました! いけそうです!」


コロッピが額の汗を拭いながら、ぐったりしている仁志に声をかける。


「よくやったな、コロッピ……。もう俺は限界だ……早く元に戻ろう……」


仁志は入れ替わっている数時間の間、強制的な禁煙状態になっていたので、ニコチン切れを起こしていた。


「じゃあ、スイッチ押しますよ!」


コロッピが修復されたマシーンの赤いボタンを押すと、機械から「ビビビビッ!」と激しい光のレーザーが照射されて二人を包み込み、しばらくして光が収まった。


仁志がゆっくりと自分の体で目を開けると、目の前には本来の青い顔をしたコロッピが立っていた。


「……成功だな」


仁志が自分の手を見つめ、深々と息を吐く。


「よかった! 記憶も意識も混ざってなさそうですね!」


コロッピも自分の青い身体の手足を動かしながら嬉しそうに頷いた。


「で、そのボディチェンジマシーンはどうする? 買い取るか?」


仁志が直したマシーンを指差しながら尋ねる。


「せっかく自分で苦労して直したんで、持って帰ります。 今度、コロニーにいる人間に体を借りて遊びに来るので、その時はお店の外の街を案内してください、仁志さん!」


「あいよ。またな、コロッピ」


『俺様にもまた会いに来いよ、コロッピ!』


「スカイも、また来た時はよろしく!」


コロッピは仁志とスカイに手を振って別れを告げると、直したマシーンを乗せた台車を押しながら店を出て行った。

引き戸が閉まるのを見届けると、仁志は大急ぎでカウンターの煙草を口に咥えると火をつけた。

そして煙を深く吸い込むと、噛みしめるようにゆっくりと煙を吹き出した。


「ふはぁぁ……煙草……うめえ……」


仁志は生き返ったような顔で天井を見上げる。


『……おいおい、そのまま禁煙した方がよかったんじゃないのかー?』


画面の中のスカイが、呆れ返った顔で煙草を吸う仁志を見ていた。

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