第41話 そこまで言われたら断れんな
今日は地下の四次元倉庫に、10メートルを超える巨人のドンドがやって来ていた。
ドンドは以前、地下倉庫へ迷い込んで「アルテミスの弓」を買っていって以来、たまに訪れる馴染みの客となっていた。
「じゃあ、これ約束のアダマンタイトの欠片だど」
ドンドは獲物を解体するためのナイフ(デカい)を買っていった。
「毎度ありー」
仁志は自分の手のひらサイズほどもあるアダマンタイトの鉱石を受け取る。
「この前買った斧。村の木こりのゴゴンに渡したら『こんな頑丈でキレ味のいい斧は初めてだ』って喜んでたど」
「あぁ、あの『金太郎の斧』か」
仁志は自称・金太郎が使っていた斧を思い出す。金太郎は、熊に跨がるどころではない大きさだった。
「いつも便利なもんを売ってもらって助かってるだ。今日はお礼に、これを受け取ってほしいんだど」
ドンドは腰に下げた革袋から、小さな包み(米俵ぐらいデカい)を取り出して差し出した。
仁志は両手で抱えるようにしてそれを受け取る。
「ありがたいんだが、なんだいこりゃ? 重いな……」
「オラがこの前、狩ったトカゲの肉だど」
ドンドは本業が猟師で、巨大なトカゲを狩って村で生活していた。
「前も言ったと思うが、うちはナマモノの買い取りや引き取りはやってないんだよな……」
仁志が抱えた肉の重みに耐えながら困ったような顔をする。
「オラが獲った中でも一番の大物だったから、店主の家族で食べてほしいんだど」
「……そこまで言われたら断れんな。じゃあありがたく貰っとくよ。ありがとうな、ドンド」
ドンドは仁志に自慢の獲物の肉を受け取ってもらえたのがよほど嬉しかったのか、顔をほころばせながら四次元倉庫の奥へ進み消えていった。
「……さて、どうすっかな。こんなデカい肉……」
仁志は塊肉を抱えたまま、広い地下倉庫で立ち尽くした。
——そして、その日の夜。
只野家の食卓には、皿からはみ出さんばかりの分厚くジューシーなステーキが並んでいた。
「うわぁ! すごい分厚いステーキ! お店で食べるやつより大きい!」
誠司が、テーブルに並んだステーキを見て目を輝かせがら、驚きの声を上げた。
「お父さん、何か今日ってお祝い事だっけ?」
誠司が椅子に座りながら仁志に問いかける。
「いや、お祝いでも何でもない。店の客の巨人が手土産に持ってきた肉なんだよ。……デカいトカゲのな」
仁志が腕を組み、ちょっと渋い顔をしながら言った。
「……巨人が持ってきたトカゲ!? そんなの食べて大丈夫なの……?」
誠司が途端に不安そうな顔になった。
「大丈夫よ誠司。他の世界の食材だって、ちゃんとお料理すれば美味しいんだから。だって毎日、『月』の食材だって食べてるじゃない」
カグヤがいつもの穏やかな笑みを浮かべ、人参のポタージュを配りながら言った。
「えっ? 月……? あの空に浮かんでる……?」
誠司が困惑した顔でカグヤを見つめた。
「ん? どうしたの誠司?」
「まあまあ、責任を持ってまずは俺が食べてみるよ」
仁志は2人の会話に割り込むようにして、ステーキを一口パクリと口に運んだ。
「おっ! うまいぞ、これ! 見た目は赤身肉だがパサパサしてなくてジューシーだ」
「あら、本当? じゃあ私も一口……。ん!? おいしいわこれ! クセがなくてさっぱりしてるから、いくらでも食べられそう!」
仁志とカグヤが次々とステーキを口へ運んでいく。
「……じゃあ、僕も……」
美味しそうに食べる両親の姿を見て、誠司も恐る恐る肉を口に運んだ。
「……っ! すごく美味しい!!」
誠司も目を丸くすると、そこからは夢中になってフォークを動かし始めた。
「これだけうまい肉なら、今度ドンドにまた持ってきてもらうか。……ただなぁ、基準がデカすぎるから、冷凍庫を圧迫するのがな……」
只野家の食卓にはしばらくの間、トカゲ肉の料理が並び続けた。




