第39話 ちょっと待ってろ、今探してみるから
「車に気をつけて帰れよー!」
ここは仁志の幼馴染・昇が勤務している下町商店街前の交番。
昇が下校中の小学生たちに笑顔で手を振っていると、突然デスクの電話が高らかに鳴り響いた。
「……嫌な予感しかしないな」
昇は露骨に嫌そうな顔を浮かべ、覚悟を決めて受話器をとった。
「はい、こちら商店街前派出所です。……あっ、長官殿! お疲れ様です! はい、友野です! ……えっ、またですか!? 今度は海から謎の巨大怪獣がこっちに向かって来てるんですか? ……はい……はい、分かってます……今から買い出しに行ってきます……」
昇はため息をつきながら受話器を置いた。
「怪獣ぐらい自衛隊でどうにかならんかね……。まあ、出動するにも手続きが面倒だから、裏で解決した方が安上がりなんだろうけどさ……」
昇は机に頬杖をつきながらぼやく。
すると、交番のドアが開き、後輩の若い警察官が入ってきた。
「ただいま戻りましたー。街頭巡回完了っす!」
「面堂、ちょうどよかった。野暮用ができたから、ちょっと早退するわ」
面堂と呼ばれた後輩は、ジト目を昇に向けた。
「えぇ……またっすか? 友野先輩、どんな用事か知らないっすけど、そうやっていっつも急に早退するから、同期がどんどん出世してくのに友野さんだけずっとここの派出所勤務なんすよ?」
(こいつ……言わせておけば好き勝手言いやがって! 上からは秘密にしろって言われてるけど、全部バラしてやろうか!?)
昇はピクピクと引きつる頬を必死に抑え、作り笑いを浮かべて耐えた。
「ははは……いつもすまんな。ちゃんと本署から代番は来るからさ」
「それに俺、知ってんすよ! 友野先輩が早退した日の夜、商店街の焼き鳥屋『鳥トラ』で飲んでんの!」
「うぐ……!」
(それは否定できん……買い出しが終わった後に仁志と飲んでるからな……)
「今度のシフト、優先して通してやるよ……」
「よっしゃ! お願いしますよ、先輩!」
面堂はコロッと表情を変えると椅子に腰掛けた。
昇はロッカーで黒いスーツに着替えると、ロッカーの奥に隠された金庫から、政府から支給されている現金100万円の束と、万が一足りなかった時に国家予算が使えるクレジットカードを鞄に放り込み、交番を後にした。
昇は夕暮れの商店街を歩きながら、路地裏の『ただの』へと向かう。
(今月はもう2回目の買い出しだからな……。今日は仁志と飲まずに真っ直ぐ帰るか……?)
昇が馴染みの焼き鳥屋『鳥トラ』の前で足を止めた。
(嫁に『また仁志さんと飲み歩いてきたの!?』ってめちゃくちゃ怒られるしな……)
「はぁ……」
昇はため息をつきながら、トボトボと商店街の中を歩く。
(そもそも、秘密裏に政府の厄介事のパシりさせられてるのに、給料が全然上がらないのはどういうことだよ! 謎の手当は多少出るけどさ……。俺だけずっとこの派出所なのも、絶対トラブルが起きた時に『ただの』へすぐ行けるからだよな……。はぁ……俺、出世できるのかね……?)
ぼんやりと自分の将来を案じながら歩いているうちに、気づけば路地裏の『ただの』の前にたどり着いていた。
(まあ、ウジウジ悩んでても仕方ないか……。一応、世の中のためにはなってるわけだし……。よし! 買い出しが終わったら、やっぱり仁志と飲むか!)
昇は吹っ切れたように勢いよく『ただの』の引き戸を開けた。
「仁志! 海から怪獣が来てるから、何か倒せそうなのくれ!」
「ん? 昇か。……ちょっと待ってろ、今探してみるから。怪獣対策と……」
仁志が咥え煙草でホログラム画面を見始める。
昇は店の中に入ると、静かに引き戸を閉めた。




