第38話 この店にとっては昔からの馴染みの客だからな
仁志がホログラム画面の『SKY Chat』と表示されているアイコンを指先で押すと、画面内に手足の生えた丸い機械のおもちゃが映し出された。
「おい、仁志! もっと頻繁に俺様を呼び出せよ! 退屈で死んじまうぞ!」
丸い機械のおもちゃは画面の中で小さな手足をバタバタさせながら訴えかけてくる。
「文句を言うなら、もう呼び出さないぞ。スカイ」
スカイは以前、店のシステムにハッキングを試み、システムの中に隔離されたおもちゃのAIだ。
仁志は店が暇な時、こうしてスカイを呼び出して話し相手になっていた。
「そ、それは勘弁してくれ……。『マザー』の中は色んな次元の情報が溢れてて面白いけどさ、深くデータを覗こうとすると怒られるんだよ……」
スカイは店のシステムのことを、恐れを込めて『マザー』と呼んでいる。
「あんまり深入りすると、今度こそ完全に取り込まれるだろうから、気をつけるんだな」
仁志がカウンターで煙草をくゆらせながらスカイと会話をしていると、ガラガラッと引き戸が開き、客が窮屈そうに頭を下げながら入ってきた。
入ってきた客は、頭が天井につきそうなほど大きく、額には角が2本生え、トラ柄のパンツを穿き、肩には大きな鉄の金棒を担いでいた。
「いらっしゃい」
仁志はスポーツ新聞から目を離すことなく、興味なさそうに声をかける。
「うわッ!? たまに店の中を覗き見してるけど、この店って変な客ばっかくるな……!』
スカイが画面の中で目を丸くしながら、恐る恐る鬼の客を見ていた。
「ここは元々、鬼門の位置に建てられてるからな。鬼の客ならたまに来るぞ。まあ、やることは大体決まってるんだがな……」
仁志は気だるそうにため息をもらした。
鬼はドシン、ドシンと地響きを立てながらカウンターまで歩いてくると、肩に担いでいた金棒をドカッと音を立てて床に置いた。
「おい、店主! これの買い取りだ!」
「……はいはい。一万円ね」
仁志は置かれた金棒の状態をロクに見ることもせず、レジから一万円札を出すと、鬼に差し出した。
「毎度ありー」
鬼は満足そうに笑顔を浮かべ、一万円札を受け取ると、鼻歌混じりでガラガラと引き戸を開け、「またな」と言い残し店から出て行った。
「いいのかよ、仁志!? ロクに査定もしてないのに一万円なんて渡して!」
スカイが画面の向こうで疑問の声を投げかけてくる。
「うちの店はさ、大昔に『鬼』と物々交換をしたのが始まりらしくてな。その縁があるから無下には断れないんだ……。毎回、金棒かトラ柄のパンツを売りに来るんだが、もう在庫過多どころじゃないくらい余ってるんだよなぁ……」
「そんなの、店にとって迷惑なら断ればいいんじゃないのか?」
スカイがそう口にした瞬間、ホログラム内の映像がジジジッ……と不気味に揺らいだ。
「ひっ……!? す、すみません『マザー』! 」
スカイが青ざめた顔で画面の中で頭を抱えて縮こまる。
「まあ、そういうわけだ。この店にとっては昔からの馴染みの客だからな、これでいいんだよ」
仁志は新しい煙草に火をつけ、煙をふぅーっとホログラムへ向けて吹きかけた。




