第37話 どう伝わってんだかねぇ、うちの店は
「グギャーーー!!」
断末魔の叫びとともに、巨竜が激しく身悶えし、その場にどさりと倒れ伏した。
ついに勇者ロイドは、魔竜を打ち倒したのだ。
「やったぞ! これでついに……伝説の地に行ける!」
ロイドは魔竜の胸元からぽろりとこぼれ落ちた、妖しく輝く『龍玉』を拾い上げると洞窟の奥へと進んだ。
暗い洞窟を抜けた先に広がっていたのは、黄金色に輝く大きな池だった。
そしてその中心に浮かぶ小島には、木製の『扉』がぽつんとひとつ佇んでいた。
「古文書に書いてあったとおりだ……! あの扉の先に、神々が遺した武具が眠っているはず……!」
ロイドは意を決して池を渡ると、扉の前に立ち、そして強く引いた。
「ん!? あ、あかない!?」
扉は引いても押しても、ガタガタと音を立てるだけで一向に開く気配がない。
ロイドは力を込めて引っ張ったが、びくともしなかった。
「くっ……俺にはまだ、伝説の地へ足を踏み入れる資格がないというのか……!」
ロイドが諦めかけたその時——。
「お客さん。それ『引き戸』なんで、横に滑らせて開けてもらえる?」
扉のすぐ向こう側から、あまりにも拍子抜けするような男の声が聞こえてきた。
「こ、こうか!?」
ロイドが慌てて横へと滑らせるように扉を動かすと、今までの抵抗が嘘のようにガラガラと音を立てて簡単に扉が開いた。
「いらっしゃい」
扉の先は、壁や棚には見たこともない様々な武具や防具、奇妙な道具が所狭しと並んでいる商店のような場所だった。
奥には一人の男が椅子に腰掛けて座っていた。
「ここが……神器が眠る伝説の地か……! 確かに棚に並んでいるものは、とてつもない力を秘めてそうだ……」
ロイドはキョロキョロと店内を見回しながら、男の前へと進み出た。
「いらっしゃい。今日は何かお探しで?」
男は気だるそうに尋ねてきた。
「ここは神々の武器が手に入る地だと伝説にあったのだが……」
ロイドが恐る恐る尋ねる。
「あるよ。あんた、身なりからして剣士っぽいから剣でいいかい?」
男はあまりにあっさりとそう言った。
「あ……ああ、剣で頼む!」
男は重い腰を上げると奥の棚へと向かい、1本の剣を持ってきた。
無駄な装飾などは一切なく、シンプルだが神聖な力を感じさせる一振りの長剣だった。
「これなんてどうだい? こっちの世界じゃなかなか有名な剣で『デュランダル』って言うんだ。何でも一刀両断できるらしいぞ」
ロイドがデュランダルを手に取ると、まるで自分の身体の一部だったかのように驚くほどしっくりと手に馴染んだ。
刃を少し抜くと、切先は眩い光を放った。
「おおおおッ……! まさに、伝説の剣! これなら、神龍にも挑めそうだ!……これを持ち帰ってもいいのか!?」
ロイドが感動しながら男を見た。
「まあ、タダでやるわけにはいかんよ。あんた、こっちの金は持っていなさそうだな……。何か、これに見合う、交換できそうな物は持ってるかい?」
男にそう言われ、ロイドは懐を探り、倒した魔竜から手に入れたオーブを取り出してみせた。
「数多の冒険者を退けてきた魔竜の『龍玉』なのだが……これでどうだろうか?」
「龍玉ねぇ……ちょっと見せて」
男は手渡された龍玉を光にかざして見た。
「……うん、これならいいだろ。これと交換で、その剣を持って帰るかい?」
「いいのか!? それで頼む!」
ロイドは龍玉を差し出した。
「毎度ありー」
ロイドはデュランダルを腰の鞘に収めると、晴れやかな表情で出口の扉へと向かった。
そして、引き戸を開ける直前で振り返ると、男に向かって言った。
「神の使いよ! 伝説の剣を授けていただき、心より感謝する!」
そう言い残すと、勇者ロイドは扉の向こうへと去っていった。
ロイドが扉から出て行くと仁志は煙草に火をつけるとぽつりと呟いた。
「……今の客の世界じゃ、どう伝わってんだかねぇ、うちの店は……」




