第31話 よし……値上げしとくか
ガラガラと店の引き戸が開くと、そこには派手なサイケデリック柄のシャツにフレアパンツを穿いた、ヒッピーのような格好をした女性が立っていた。
「いらっしゃい」
仁志はスポーツ新聞から目を離すことなく、短く声をかける。
女性は店内を物珍しそうに見回すと、棚に置かれた昭和のダイヤル式テレビや真空管レコードプレイヤー、古い調理器具などを熱心に見ていた。
仁志は特に気に留める様子もなく、新聞をめくりながらコーヒーを飲む。
しばらくして、女性が興奮した面持ちでカウンターにやってきた。
「ねえ店主さん! ここに置いてあるレトロ家具や家電って当時の本物? それとも精密なリバイバル復刻品?」
「……リバイバル? よく分からんが、昭和当時の物だと思うぞ」
「やっぱりそう! なら、あのブラウン管テレビとレコードプレイヤーを貰うわ」
「あいよ」
仁志が重い腰を上げてカウンターから出て、指されたテレビとレコードプレイヤーを運んで集める。
女性は店内をもう一度一周すると、昭和歌謡のLPレコードを数枚と、古いブリキのおもちゃを1個抱えてカウンターに戻ってきた。
「ここの商品はどれも保管状態がめちゃくちゃいいわね。こんな美品見たことないわ!」
「そりゃどうも。えーっと、合計で……3万2000円だな」
「安いわね! ん? ちょっと待って……3万2000『円』? 3万2000エールじゃなくて?」
女性が不思議そうに首を傾げる。
「……あんた、どこの時代から来たんだい? 今は2026年だよ」
「えっ!? そうなの!? 『レトロショップ』で調べたらここが出てきて、座標指定してワープしたんだけど……」
「まあ、うちは特殊だからね。それより、あんたの時代でも、また昭和レトロが流行ってんのかい?」
「そうなのよ! あの無骨でシンプルで、不便なところが一周回ってめちゃくちゃ可愛くない!? 1000年近く前の時代だから、私の時代にあるのはほとんどレプリカかリバイバル品で、当時の本物は博物館級のお宝なの!」
「へぇ、3000年代になっても流行りは繰り返すんだな。……まあ、こっちの現金(日本円)は持ってなさそうだし、3万2000エールでいいよ。決済は電子決済でいいかい?」
「助かるわー!」
仁志がカウンターの奥から引き出した謎の未来型決済端末に女性が指先をかざすと、ピコンッと電子音が鳴り決済が完了した。
「ここ、本物が安く買えるから、絶対また来るわね!」
女性は買い取ったテレビやレコードをホバー機能がついた反重力ボードの上に載せると出口へと向かった。
「毎度ありー。出来れば、今度来る時はこっちの現金を用意してくれると助かるよー」
仁志は店を出ていく女性にひらひらと手を振った。
引き戸が閉まると、仁志は煙草に火をつけ、店内の棚に並べられた昭和レトロな古道具たちを見渡した。
「未来でも昭和ブームとはね……そういえば、今も確か昭和ブームだったか?よし……値上げしとくか」
仁志はにやりと笑って、値札を書き直すためのマジックと用紙を取り出した。




