第30話 うちではいつもと同じ『ただの』客だ
仁志がカウンターで気だるそうに煙草を吸っていると、店の引き戸がガラリと勢いよく開かれた。
それと同時に、店内が目が眩むような強烈な光に包まれた。
「うお!? 眩しッ!!?? 」
仁志は思わず腕で目を覆い、顔を背ける。
まばゆい光と共に、ゆっくりと人影がカウンターに向かって歩み寄ってきた。
「我は神なり! 崇めよ人間よ! 」
光の中か声が響き、人影は両手を大きく広げてそう高らかに言い放った。
仁志は目を細め、眩しさに顔をしかめながら言い返した。
「……とりあえずさ、眩しくて何にも見えないから、その後光やめてもらえる?」
「人間よ! 我は神であるぞ! 神を崇めよ!」
「……神か何だか知らんけどさ、うちに来たってことは、何か買うか売るかしに来たんだろ? 後光を抑えてもらわないと何もできないんだけど?」
仁志がいつも通りのトーンで淡々と言った。
「生意気な人間め! 神の威厳を理解せぬ不敬者は、裁きの雷をくらえッ!」
神と名乗る人影は、右手を天井に向けて力強くかざした。
——だが、何も起こらない。
「な……!? どういうことだ!? 神の雷が落ちないだと……!?」
神と名乗る人影は、自分の右手と天井を交互に見つめて狼狽える。
「……店の中でそういう物騒なことできないから。……さっきも言ったけど、うちに何か用があって来たんだろ? とりあえず見えないから後光を抑えてくれるかい?」
仁志が改めて落ち着いた口調で、諭すように言った。
「う、うむ……」
神と名乗る人影は小さく頷くと、渋々といった様子で全身から放っていた後光を消した。
光が収まったあとに姿を現したのは、古代ギリシャ人のように身体に白い布を纏った、白い髪と立派な髭を蓄えたガタイのいい大柄な男だった。
「ふう、これでやっとまともに話せる……。で、今日はどんなご要件で?」
「うむ……。我は『シャザール』という世界の神なのだが、現在、邪神の軍勢と戦争中でな。神器が不足しているのだ……。他の神仲間から『あそこに行けば手頃な神器が手に入る』と聞いてやってきた」
シャザールの神は、先ほどまでの高圧的な態度から一転し、少し気まずそうにボソボソと呟いた。
「……あるにはあるけどさ、物騒なことをしようとしたあんたには武器は売れないな。……ただ、治癒系と防具なら売ってやってもいいが、どうする?」
仁志はカウンターに頬杖をつきながら、ぶっきらぼうに提案した。
「……それで構わない。治癒系の品を2つ、防具を3つほど譲ってくれ」
「……あいよ」
仁志は重い腰を上げると奥の棚へと向かい、神聖なオーラを纏った治癒の宝玉と杖と、黄金に輝く盾や甲冑を見繕ってカウンターに並べた。
「全部で30万円だな。悪いけど、あんたにはこっちの金以外じゃ売れないよ」
「うむ……。事前に聞いておったので、用意してある」
シャザールの神は懐から札束を取り出し、そこから30万円を支払った。
そして受け取った神器たちを、空間を歪めて出現させた穴へと仕舞い込んだ。
「どうも。……次来る時は、そういう物騒なことはしないでくれよ。まあ、次に同じことをやったら、そもそも店に入れなくなるだろうけどね」
仁志はレジに現金を仕舞いながら、シャザールの神に軽く釘を刺した。
「……うむ。理解した……」
シャザールの神はボソリと漏らすと、くるりと向きを変えて出口へ向かった。
そして引き戸を開けると、足を止め仁志の方をチラリと振り返った。
「……いきなり現れて無礼な態度をとった。……すまぬ」
そう静かに言い残すと、シャザールの神は引き戸を閉めて去っていった。
「……毎度あり」
仁志はシャザールの神が店から出ていくのを見届けると、煙草に火をつけポツリと呟いた。
「ひさびさに物騒なのが来たな……。まあ、どこの世界の神だろうが、うちではいつもと同じ『ただの』客だ……」
仁志は引き戸の向こうを見つめながら、ゆっくりと吐き出した。




