第27話 いつまでこの店に顔を出せるかわからんな
仁志がカウンターで暇そうに煙草を吸っていると、店の引き戸がガラッと開いた。
入ってきたのは、後頭部がやたらと長く伸びた、着物姿の小柄な老人だった。
「……」
仁志が何も言わずにじっと見ていると、老人は売り物のちゃぶ台を広げ、マイペースにお茶を淹れると、そのまま座り込んでくつろぎ始めた。
「……『ぬらりひょん』さん、見えてるから。それ売り物だし、商売の邪魔だから勝手にくつろがないでくれる?」
やって来たのは、妖怪『ぬらりひょん』だった。
仁志は呆れ顔でぼやく。
「まあそう固いことを言うな、仁志。最近は昔に比べて儂らを見える人間がめっきり減って、暇で仕方が無いんじゃ」
ぬらりひょんは文句を言いながら、お茶を啜った。
「それに、『土蜘蛛』が解き放たれると聞いて楽しみにしておったのに、この店のせいでまた封印されたそうじゃないか! ひとこと文句くらい言わせい!」
「あー、この前、昇が言ってた大妖怪か。あれなら政府のそっち系の部署で何とか処置したらしいから、うちの店は関係ないぞ」
先日、昇と居酒屋で飲んでいた時に電話がかかってきた件は、政府の専門部署の手で事なきを得たらしい。
「なに、そうなのか!? 今の時代に、土蜘蛛を封印できる人間がおるというのか……?」
「うーん、時代の変化で妖怪の力が大分弱くなってるんだと思うよ……」
「はぁ……世知辛いのぉ……。おい仁志、煙草を1本くれ」
「あいよ」
仁志から煙草を1本受け取ると、ぬらりひょんは深くため息をつきながら煙をふぅーっと吐き出した。
「ふぅ……お前に愚痴を言ってもつまらんから、商店街の祠の神とでも酒を飲むとしようかの。じゃあな、仁志」
ぬらりひょんは煙草を咥えたまま立ち上がり、出口へと向かった。
「おいおい、歩き煙草はよくないぞー」
仁志が後ろから軽く注意する。
「どうせ、今の世の中に儂のことを見えるやつなど誰もおらんよ……」
ぬらりひょんは背中を丸め、どこか寂しげな様子で出て行った。
「ぬらりひょんも、いつまでこの店に顔を出せるかわからんな……。また来た時は、妖気をまとった呪物でも勧めてやるか……」
仁志は少し寂しそうに、灰皿で煙草を揉み消した。




