第26話 毎月、大量に送られてくるな
「仁志さん、見てください! ワゴンにすごいものが眠ってましたよ! 月の欠片です!」
常連客の魔導師マーニアが、1000円均一のワゴンの中から赤い石を取り出し、カウンターの仁志に嬉しそうに見せてきた。
「へぇ……それ、月の石だったのか」
「知らないでワゴンに入れてたんですか!? もったいない! この石は月が出ている時に持ってると、魔力が上がるんですよ!」
「へぇ……」
仁志がやる気のない返事をしていると、ガラガラッと店の引き戸が開く音がした。
(ん……? マーニアがいるのに、誰か入ってきたぞ……)
仁志が不思議に思って入口へ視線をやると、そこには大きな手提げ袋を抱えた妻・カグヤが立っていた。
「なんだ、カグヤか。どうした?」
「商店街に行くついでに寄ったの。あら、いらっしゃいマーニアさん」
「あ、お久しぶりです、カグヤさん!」
カグヤがにこやかに挨拶すると、マーニアもお辞儀した。
「また、実家——じゃなくて、遠い親戚から人参と筍が送られてきたのよ。ご近所や商店街の人たちに配ろうと思って持ってきたんだけど……マーニアさんも少し持っていく?」
カグヤが重そうな袋から、立派な人参と筍を取り出してみせた。
「えっ、いいんですか!? ありがとうございます! 食べたことないですけど美味しそうですね!」
「毎月、大量に送られてくるな……。まあ、カグヤの作る人参と筍の煮物は美味いからいいけど」
仁志がカウンターで頬杖をつきながら、呑気に呟く。
「私にとって主食——じゃなくて! 私が好きだから、親戚が気を利かせて送ってくれるのよ!」
なぜかカグヤが慌てた様子で言葉を言い直した。
「あ! そ、それよりマーニアさん! その綺麗な石は何かしら?」
あからさまに話題を逸らすように、カグヤがマーニアの持つ赤い石へ視線を注ぐ。
「これですか? これは僕の世界の『月の欠片』なんですよ!」
「へぇ……そちらの月は赤いのね。実家の月の石とは全然違うわね……」
カグヤが感心したように赤い月の石を見つめる。
「実家の月の石……?」
仁志がジト目でカグヤを見ながら尋ねた。
「!! あっ! もうこんな時間! 夕飯の準備もあるし、早く配らないと! じゃあね!マーニアさんもごゆっくりー!」
カグヤはバタバタと逃げるように店を飛び出していった。
「どうしたんですかカグヤさん? 慌てて行っちゃいましたけど……」
「さあな……」
仁志はカグヤが出ていった引き戸を見つめながら、ふっと笑った。




