第25話 ちょうど俺も使おうと思ってたところなんだよ
「いててて……! くそっ、張り切りすぎたなこりゃ……」
先日、商店街の草野球チームの試合に出た結果、仁志は右肩と腰を酷く痛めた上に、全身が激しい筋肉痛に見舞われていた。
「そうだ! この前、地下倉庫の奥で見つけたマッサージ機を試してみるか……!」
仁志は痛む腰を庇いながら勢いよく立ち上がると、地下の四次元倉庫へと向かった。
地下倉庫の奥で見つけたのは——中世の拷問器具『アイアンメイデン(鉄の処女)』にしか見えないマッサージ機だった。
「記録には一応『全自動全身マッサージ機』で、『すごく疲れが取れる! イタ気持ちいい! ※痛みの感じ方には個人差があります』としか書いてないんだよな……。……やっぱやめとくか。見た目がヤバいし……」
仁志が使うか迷っていると、『ピンポーン』と客の来店を知らせるチャイムの音が地下へ響いた。
「客が来たか……。とりあえず保留だな」
仁志はヨロヨロと地上へ戻った。
地上店舗に戻ると、そこには腰が丸く曲がり、かなり猫背になった老婆が立っていた。
「いらっしゃい、田中のばあさん。何かお探しで?」
田中のばあさんは下町の商店街でお惣菜屋をやっている昔からの顔馴染みだ。
「マッサージ機はあるかい? もうね、どこもかしこも痛くて痛くて……。それに、この前商店街のゲートボール大会で肩を痛めちゃってさ……」
田中のばあさんが辛そうに左肩をさする。
「ばあさんもか……。実は俺も草野球で全身痛くてさ。……そうだ! ばあさん、ちょうど地下に良さそうマッサージ機があったんだけど、試してみないかい?」
田中のばあさんが胡散臭そうにジト目で仁志を睨みつける。
「……変なのじゃないだろうね? あんたんとこに置いてあるのは、怪しい物ばっかりだからねぇ……」
「大丈夫だって! ちょうど俺も使おうと思ってたところなんだよ。すぐ持ってくるから、ちょっと待ってな」
仁志はそう言うと、再び急ぎ足で地下へと向かった。
しばらくすると、仁志はアイアンメイデンのようなマッサージ機をごろごろと台車で運んできた。
「……ちょっとあんた、これ拷問器具じゃないかい!?」
田中のばあさんは疑いの目を仁志に向けた。
「未来のマッサージ機だから見た目が斬新なだけ! お金もいらないからさ! さぁさぁ、入って入って!」
仁志が観音開きの蓋を開けると、田中のばあさんは「大丈夫なのかねぇ……」とブツブツ文句を言いながらも渋々中に入った。
「中に全身とか部位ごとのマークがついたボタンがあるから、それを押してみて」
内側には全身や、肩・腰・足など部位ごとにイラストが描かれたボタンが並んでいた。
「これかい?」
田中のばあさんが全身マークのボタンを押すと、ガチャン!と音を立ててマッサージ機の蓋が閉まった。
「……おや?何かジェルクッションみたいな柔らかいのが全身を包んできたわね……。って——っ痛ぁぁぁい!? いたたた! 痛い痛い! ぎゃーーーっ!!」
田中のばあさんの絶叫が中から響き渡ったかと思うと、数十秒でピタリと静かになった。
(……やっちまったか……!? )
仁志は冷や汗を流し、内心本気で焦りながらマッサージが終わるのをハラハラと見守った。
30分後。
プシューッ……!という音と共に、マッサージ機の重い蓋がゆっくりと開いた。
(生きててくれよ……ばあさん!)
仁志が恐る恐る中を覗き込むと、そこには——曲がっていた猫背が見事にスッと伸び、お肌にツヤとハリが戻って10歳は若返ったような田中のばあさんがシャキッと立っていた。
「よかった……! ばあさん、生きてたか!!」
仁志は安堵のあまり、田中のばあさんの手を固く握りしめた。
「……あんた、まさか私を実験台にしたのかい?」
田中のばあさんがギロリと睨みつけた。
仁志はサッと手を離して後ずさりする。
「……まあ、いいわ。最初の強烈な痛みで意識が飛んで、気づいた時には全身の痛みが綺麗さっぱり無くなってたからね。なにより、長年悩んでた腰の曲がりと猫背まで治ったわ!」
田中のばあさんが、背筋をピシッと伸ばしてポーズを決めてみせる。
仁志はパチパチとやる気のない拍手を送った。
「あんたの店にも、たまには良い物があるじゃないの! じゃあ、帰って仕込みするわ!」
田中のばあさんは元気に手を上げると、きれいな姿勢で爽やかに店を出て行った。
「毎度ありー。……さてと」
仁志は田中のばあさんが店から出て行ったのを確認すると、ウキウキとした足取りでマッサージ機の中に入った。
「田中のばあさんで効果は実証できたし、よし、俺もやっておくか!」
仁志は期待を込めて『全身』のボタンを力強く押した。
「——っいたぁぁぁぁぁッ!? いたたたた!! ちょっと待て!これ、シャレにならん!! 痛い痛い痛い!! ぎゃぁぁぁぁーーーっ!!!」
田中のばあさんと違って一向に意識が飛ぶことはなく、マッサージコースが終了するまでの30分間、店内には仁志の悲鳴が響き渡った。




