第23話 せっかく来たんだから、何か買ってくか?
ウー! ウー!
仁志がカウンターで気だるそうに煙草を吸っていると、突如として店内に警告音が鳴り響き、天井で赤いサイレンが激しく回転し始めた。
「なんだ? また地下に何か変なのが紛れ込んだか……?」
仁志は溜め息をつくと、空中に手をかざしてホログラム画面を展開した。
地下の四次元倉庫の監視映像を表示させると、そこには手に竹籠のようなものを持った人影が、困惑した様子で頭を掻きながら辺りを見渡している姿が映し出されていた。
「あー、間違って繋がった感じか……。ほっとけばそのうち出ていくだろうが、一応見に行くか」
仁志は灰皿で煙草を揉み消すと、地下倉庫へ向かった。
監視映像に映っていた場所に着くと、そこには10メートルを遥かに越える巨人が茫然と立ち尽くしていた。
「おーい! あんた! どうやってここに来たんだ!?」
仁志は手をメガホンにして、大声で巨人に声をかけた。
「ん……? おお、足元に小人がいるど」
巨人が地鳴りのような足音を立てて屈み込み、仁志を珍しそうに見下ろした。
「あんたがデカいんだよ。それより、どうやってここへ来たんだ?」
「オラは村の近くの洞窟で、矢の先につける固い鉱石を採ってたんだど。奥へと進んでたら、いつの間にかこの真っ白な場所にいたんだど……。オラはもう死んで天国に来たんだか?」
巨人は不安げに、だだっ広い四次元空間の天井を見回す。
「死んでない死んでない。ここはあんたがいた世界とは別の次元にある、リサイクルショップ『ただの』って店だよ。まあ古道具屋だな。せっかく来たんだから、何か買ってくか?」
「小人の店にオラが使えるようなデカい道具なんてあるだか? それにオラ、今日は金なんて持ってないど」
巨人が困り顔で大きな頭を掻いた。
「うちの店、あんたみたいにデカい客はめったに来ないからさ、場所を取るわりに売れないデカい在庫がたくさんあって困ってんだよ。……それより、ちょっとその手に持ってる籠の中身を見せてくれ」
巨人は素直に頷くと、大きな手で籠の中から、自分の手のひらサイズの、鈍く黒光りする鉱石を取り出した。
「アダマンタイトだな……。その石の欠片を少し分けてくれるなら、うちの商品持って帰って大丈夫だ。デカい商品がある場所まで案内するから、俺を連れてってくれ」
仁志が巨人の大きな手のひらに乗ると、巨人はドシン、ドシンと地響きを立てながら商品が置かれている場所へ移動した。
到着した場所には、巨大な鎧や、長剣、斧などの武具がズラリと並んでいた。
「うわぁ……どれも高そうなものばっかりだど……」
巨人が圧倒されて目を丸くする。
「あんた、普段はどんな仕事をして生活してんだい?」
「オラは村の周りに出るデカいトカゲを狩って、肉や革を売って生活しとるだど」
「猟師か……。なら、あそこに立て掛けられてるアレなんてどうだ?」
仁志が指さしたのは、巨大で黄金に輝く美しい弓だった。
「あれは『アルテミスの弓』だ。使うと一発でめちゃくちゃ疲れるらしいが、弦を引いて放てば、必ず狙った対象の急所に当たるぞ」
「そんな便利なもんがあるんだか……! でも、オラの拾った石の欠片なんかで貰っても本当にいいんだか?」
「あぁ、いいよ。スペース取って邪魔だから、引き取ってもらえるとこっちも助かる」
仁志は、自分の手のひらサイズに砕いてもらったアダマンタイトの結晶を受け取った。
巨人が最初に迷い込んできた場所まで戻ってくると、仁志は奥の暗闇を指さした。
「そこの歩いてきた方向へまっすぐ戻っていけば、元の場所に繋がってると思うぞ。……多分な」
「わかった、とりあえず戻ってみるど。また来れたらくるだど!」
巨人は仁志が指さした方へ、ドシンドシンと満足そうに歩いて行った。
「おう。毎度ありー」
巨人が奥へと消えていくのを仁志は見送った。
そして、数日後。
ウー! ウー!
またしても店内に激しいサイレンが鳴り響いた。仁志が「またか」と呆れながら地下倉庫へ降りていくと——
「この前の弓、めちゃくちゃ便利だったからまた別の道具を買いにきたど! 今日はこの狩ったトカゲと何か交換してほしいど」
そこには、この前来た巨人が全長30メートルはあろうかという首長竜のような巨大なトカゲをズルズルと引きずっていた。
「うちはナマモノを扱ってないんだよな……」
仁志は苦笑いしながら頭を掻いた。




