第20話 うちは薬の類は扱ってないぞ
「いらっしゃ——誠司か。珍しいな、店に来るなんて」
引き戸のガラガラという音とともに店に入ってきたのは、息子の誠司(12歳)だった。
仁志は咥えていた煙草を灰皿で揉み消した。
「どうした? 学校で何かあったのか?」
「ねえお父さん……この店に『ほれ薬』って置いてある?」
「ほれ薬? なんだ、お前好きな子でもできたか?」
仁志がニヤニヤしながら茶化す。
「ち、違うよ! クラスの女の子から相談されたんだよ! で、うちの店ならあるかなーと思って!」
誠司が真っ赤になりながら必死に弁明した。
「残念だが、うちは薬の類は扱ってないぞ。色々面倒だからな」
「なんだ、ないのか……。じゃあ他に、相手を好きにさせるような物ってない?」
「そうだな……」
仁志は腰を上げると、棚の奥を漁り、表紙がピンク色の本を取り出してきた。
「まずはこれ、『基礎から学ぶ 恋愛魔法の手引き書』。相手を惚れさせる魔法が色々書いてあるぞ。まあ、そもそも魔力がないと使えんし、才能があっても習得までに10年以上かかるがな」
「普通の小学生に魔力なんてあるわけないじゃん!」
誠司が速攻でツッコミを入れる。
仁志は「だよな」と苦笑いしながら再び棚を漁り、今度はメカメカしいヘッドギアに有線で液晶端末がついたものを出してきた。
「じゃあこれは? 『思考変換器』。直接、相手の脳波を弄って思考を書き換えるんだ」
「普通に怖いよ!」
仁志は「うーん」と腕を組みながら店内を見回し、今度は顔のない小さな布人形を持ってきた。
「あと、思いつくのはこの『好き好き人形』だな。人形の中に自分の髪の毛を入れて相手にプレゼントすると、相手が自分のことをどんどん好きになっていくんだ」
「ちょっと不気味だけど、それなら使えそうかな……」
「ただし、早めに回収しないと、相手の好意の対象が自分から完全に『その人形自体』に移るんだ」
「なんだよそれ! 気軽に渡せないじゃん!」
誠司が声を張り上げた。
「まあ、他人の好意や気持ちを強制的に変えるってのは、それだけ難しくて危険だってことだな」
「はぁ……学校で『任せて! 』って大見得切っちゃったのにどうしよう……」
誠司がガックリと項垂れる。
「じゃあ、これなんてどうだ?」
仁志がカウンターの引き出しから取り出したのは、ピンクと金糸で刺繍された素朴な『恋愛御守』だった。
「恋愛の神様から直接買い取ったやつだぞ」
誠司がそのお守りをジッと胡散臭そうに見つめる。
「これ……商店街の路地裏にある祠の神様のじゃないよね……?」
「違う違う、これはちゃんとした縁結び専門の女神さんから買い取ったやつだよ」
仁志が笑う。
「まあ、普通の神社のお守りよりは確実に効果はあるはずだぞ」
「……わかった。じゃあ、それ貰っていく!」
「はい、500円ね」
「えっ、お金とるの!? 」
「お前が自分で使うならタダでやるが、友達に渡すんだろ? 」
仁志がニヤニヤしながら手を差し出す。
「ちぇっ……はい、500円」
「毎度ありー」
仁志が500円玉を受け取ると、誠司にお守りを手渡した。
「よし、エミちゃんに渡してくる! じゃあね、お父さん!」
「おう、気をつけて行けよー」
誠司は大事そうにお守りをポケットに仕舞うと、元気よく店の外へと駆け出していった。
仁志は遠ざかる息子の背中にひらひらと手を振りながら、煙草に火をつけた。
「……で、そのエミちゃんって子が惚れさせたい相手は、一体誰なのかねぇ」
仁志はどこか嬉しそうに目を細めながら、煙をふぅと天井へ吐き出した。




