第19話 『これじゃない!』っていつも言われるからな
「ロンギヌスの槍? あるよ」
仁志の前には、聖職者が着るような真っ白なローブを纏った一人の青年が立っていた。
「本当ですか!? よかった……これで国を脅かす神を殺すことができる!」
青年が興奮気味に声を弾ませるのに対し、仁志はどこか言葉を濁すように言った。
「ただね……うちのロンギヌスの槍は、ちょっと特殊でね」
「そりゃあ特殊でしょ。伝説の聖骸なんですから」
「いや……5本あるんだ」
「えっ……? 5本……!?」
「まあ、見てもらった方が早いか……」
呆気に取られている青年を促し、仁志は本棚の隠し扉を開けて地下の四次元拡張空間へと向かった。
仁志は保管場所に着くとロンギヌスの槍を順番にみせる。
「まずはこれ。神の子を刺した直後のロンギヌス」
見た目は古びた武骨な鉄の槍先だが、その刃は微かに神聖で淡い光を纏っている。
「次は、それから500年後のやつ」
持ち手の柄は朽ち果てて失われ、槍先だけになっているが、光が増しているように見える。
「それで、こっちが未来人がロンギヌスを核にして建造した兵器」
全長10メートルほどもある巨大な二股の槍で、その中心に少し朽ちたロンギヌスの槍先が、怪しく輝く水晶の中に浮かび漂っている。
「んで、神の子を殺したことで神々との全面戦争に発展した世界線のやつ」
槍先はもはや剣の刃ほども大きく、柄には豪華絢爛な装飾が施され、神々しい光を放っていた。
「最後が、これ。異世界の英雄ロンギヌスが愛用していた槍だ」
三叉の槍の形状をしており、全体が深く澄んだ青い光を放っている。
「……とりあえず、自分が思ってたのはこんなにデカくはないですね」
10メートル級の未来型ロンギヌスを見上げながら、青年は引きつった笑いを浮かべた。
「お客さん、そもそもどこから来た人なの?」
仁志が煙草に火をつけながら尋ねる。
「僕の世界では、神の子が存在したのは確かです。ただ、神々と戦争になっているというよりは、台頭する他の宗教の神に対抗するのが目的ですね……」
「なるほどね。じゃあ、この『神々と戦争になった世界線』のロンギヌスにしてみるか?」
仁志が、豪華な装飾の施された大型の槍を指差す。
「……高そうですね。自分の世界の金貨が10枚ぐらいしかないんですが、買えますか?」
「ちょっと、その金貨見せて。……うーん、あんまり質がよくなさそうだな……。これだと、最低でも金貨500枚は欲しいところだね」
「そんな……! 買えそうなの、何かありますか……?」
青年が必死な表情をしたので、仁志は「うーん」と腕を組んで考え込んだ。
「ロンギヌスの槍はさ、うちでも客の問い合わせが多いからなぁ。……あ、でもこの『異世界の英雄ロンギヌスが使ってたやつ』なら、金貨10枚でいいぞ」
仁志は青く光るトライデントを指差し、「これだけ『これじゃない!』っていつも言われるからな」とボソッと付け加えた。
「これでも……神殺しできますか?」
「わからんが、海神の力が宿ってるらしいぞ」
「海神の力か……。神の力が宿っているのなら、きっと他の神だって殺せますよね!?」
「まあ、あんまり物騒なことは俺の口からは言えないよ。どうする?」
青年は青い槍と自分の財布を交互に見つめ、ひとしきり悩んだ後、「買います! これをください!」と決断した。
「毎度ありー」
地下から地上店舗へと戻り、カウンターで金貨10枚の会計を済ませると、青年は青い槍を大事そうに抱え、「これでついに、僕も国を救う英雄になれるぞ!」と嬉しそうに店を飛び出していった。
仁志はガラガラと閉まる引き戸を見送りながら、新しい煙草に火をつけながらポツリと呟いた。
「色々な神さんがいてもいいと思うんだがねぇ……」




