第2話 昔の型のほうが装甲もフレームも頑丈で壊れにくいよ
ここは異世界のアイテムや神器、オーパーツ、果ては宇宙物質までなんでも取り扱う、下町の怪しいリサイクルショップ『ただの』。
店主の只野 仁志が、妻のカグヤから渡された特製弁当をカウンターで豪快に頬張っていると、「ガラガラ」と音を立てて客がやってきた。
客は白眼のない大きな黒い瞳に、全身に毛がなくツルッとした粘土のような灰色の肌——どこからどう見ても、一昔前のSF映画に出てくる絵に描いたような「グレイ型宇宙人」だった。
「いらっしゃい。悪いが、見ての通り今ちょうどメシの最中でね。ちょっと待っててくれるかい」
宇宙人はコクリと静かに頷くと、店内にならぶ昭和の黒電話や古代エジプトの呪いの人形、謎の鉱石などを物珍しそうに眺め始めた。
仁志は特製弁当をガガッと勢いよく口の中にかきこみ、お茶で流し込んだ。
「ふぅ、ごちそうさま。……よし、待たせたね。今日は何かお探しで?」
「実はですね……久々に母星に帰ろうと宇宙船に乗ったら、エンジン部分の『反重力コア』が壊れてしまいまして……」
「あー、反重力コアか……。アレは需要が高くてなぁ。入荷してもすぐ売れちゃうんだよ」
仁志が何もない空中に軽く手をかざすと、青白い半透明のホログラム画面が浮かび上がった。
手慣れた様子で指先をスッスッと滑らせ、在庫データを検索する。
「やっぱ、在庫はないな」
「そんな……! 明後日、姉の結婚式があるのに……これじゃ帰省できない……!」
宇宙人は大きな黒い目を極限まで見開き、頭を抱えた。
「ちょっと、地下倉庫のジャンクの山を見てみるか。まだ使えるのがあるかもしれん」
仁志が立ち上がり、壁際に置かれた古びた本棚の前で手をかざす。
すると、本棚の背表紙に複雑な幾何学模様の魔法陣が浮かび上がった。
重厚な音とともに本棚が横へとスライドし、奥から近未来的な下へと続くエスカレーターが現れた。
エスカレーターに乗り、ゆったりと地下へ降りて行くと、店の敷地面積など遥かに超えた、果てしなく広がる真っ白な大空間が現れた。
「四次元拡張空間ですか」
「大昔に時空を旅する未来人から安く買い取ったらしいんだけどね。俺も全体で何層まで広がってんのか把握してないんだよ。……よし、宇宙関係のパーツはこっちだ」
動く歩道のように床が自動でスライドし、2人は滑るように空間の奥へと進んで行く。
やがて、巨大なSF映画のドックのようなエリアに到着した。
そこには何隻もの宇宙船が所狭しと並んでいた。
「あの山になってるのがパーツのジャンク山だから、ちょっと一緒に探すか」
2人は膝をつき、金属片や謎の回路が積み上がった部品の山をかき分けながら反重力コアを探した。
だが、出てくるのはひび割れたコアばかりだ。
「ダメですね……ここにある反重力コアは、全部壊れてます……」
「まあ、星ごとに重力設定が違うから負荷がかかって壊れやすいんだよな。……ねぇ、もういっその事、ここにある中古の宇宙船ごと買ってかない?」
仁志がポンポンと、隣に並んでいる小型の中古宇宙船のボディを叩いた。
「いやいや、少し多めに下ろしてきましたけど、いま手持ちの現金10万円しかないんですよ。ローン組む余裕もないし……」
客が手を横に振る。
「じゃあ、このホコリを被ったアダムスキー型の10万でいいよ」
仁志が指差したのは、昭和のUFO特番でよく見たような、底に3つの球体がついたレトロすぎる元祖・円盤だった。
「……これ、中古というよりはただの骨董品でしょ!? 計器類もデジタルじゃなくてアナログのメーターだし、操舵もレバー操作じゃないですか……!」
「見た目はレトロだけど、エンジンはオーバーホール済みだからちゃんと動くよ。ワープ機能もバッチリ健在だしね」
宇宙人は「うーん」と腕を組み、額から汗を流しながら真剣に悩む。
「母星に帰るだけならこれで十分でしょ。今のペラペラな最新型より、昔の型のほうが装甲もフレームも頑丈で壊れにくいよ? アナログな分、電磁パルスにも強いし」
「……言われてみれば確かに。よし、背に腹は代えられません、いただきます!」
「毎度ありー」
宇宙人はその場で10万円を現金で支払うと、アダムスキー型UFOのハッチを開けて乗り込んだ。キュルキュルと懐かしいセルモーターの音が響いた後、意外なほど静かな重低音とともに円盤が浮上する。
宇宙人は窓から手を振りながら、一瞬で空間の歪みの中に消えていった。
「いやー、助かった! 地下倉庫でうん十年も不良在庫になってたアダムスキー型が売れたぞ! ラッキー、ラッキー」
仁志はホクホク顔で10万円をポケットに仕舞い込むと、鼻歌を歌いながら上の店舗へと戻って行った。




