第1話 在庫がダブついてましてね
ここは下町の一角にあるリサイクルショップ『ただの』。
見た目は古くて汚い、そしてとびきり怪しい。
店主の只野 仁志(ただの ひとし 35歳)は、古い家電や昭和歌謡のレコード、そしてパソコンのジャンク品に囲まれながら、今日も暇そうにしていた。
仁志がカウンターで気だるそうに煙草を吸いながらスポーツ新聞を読んでいると、「ガラガラ」と入口の年季が入った引き戸が開き、客が入ってきた。
「頼もう……!」
客は全身を覆う重厚な鎧を着込み、腰には煌びやかな装飾の施された剣を携え、ガシャガシャと音を立てながら仁志のいるカウンターへ歩み寄った。
「いらっしゃい。今日はどんな御用で?」
仁志は煙草の煙をふぅと吐き出しながら、まったく動じずに尋ねた。
「店主よ……聞いてくれ。私はエルフィンという世界で王属騎士をやっているのだが、気付いたらこの世界の路地裏に立っていたのだ。路銀がなく困り果てている……」
「あー、急な異世界転移ですか。そりゃまた災難でしたねぇ」
「途方に暮れていたら、路地裏の影から現れた異形のモノに『あそこの店なら、何でも買い取ってくれる』と教えられてな」
「まあ、ナマモノ以外だったら、一応なんでも見てみますけどね」
騎士は断腸の思いといった辛そうな顔をしながら、腰の鞘から抜いた剣をそっとカウンターの上に差し出した。
「この我が家に代々伝わる『宝剣 セレスティア』と、この身を守る魔導鎧を買い取ってくれんか……」
「宝剣、ねぇ……」
仁志は新聞をたたむと、億劫そうに宝剣を持ち上げた。
柄にはこちらの世界には存在しない美しく輝く宝石が埋め込まれ、刃には青白く光る高度な魔法の文様が精密に刻み込まれていた。
「そうですね……鎧と合わせて5万円でどうですか?」
「5万円……! ちなみに5万円とは、エルフィンだと金貨に換算していくらぐらいなのだ?」
「うーん……多分、金貨5枚ぐらいですかね」
「なっ!? 安すぎる!! この剣は悪を祓う浄化魔法が施された、我が国の国宝級の宝剣だぞ! 城を一軒買ってもお釣りが来るぐらいの価値があるはずだ!」
騎士は怒りを露わにし、ドンとカウンターを拳で叩いた。
衝撃でカウンターの上の灰皿が跳ね上がる。
「そう言われてもですねぇ。こっちの世界じゃ剣を持ち歩くだけで捕まりますし、そもそも剣の需要が全然ないんですよ。お困りのようだったんで、これでも高めにつけてるほうなんです。それに――」
仁志がチラリとカウンターの後ろ、店の奥の暗闇に目をやった。
すると、ガラガラという重厚な機械音とともに暗闇の奥行きが無限に広がり、まるで最新式の大型物流倉庫のように巨大な棚が滑らかに移動し始めた。
そこには、赤黒い禍々しいオーラを放つ邪神の魔剣、眩いばかりの黄金の輝きを放つ神話級の聖剣、はたまた超古代文明のレーザーブレードまで、伝説級の剣がズラリと並んでいた。
「――見ての通り、在庫がダブついてましてね。どうします?」
ずらりと壮観に並ぶ伝説級の剣の数々、さらには自国の国宝すら霞むような神威を放つ兵器群を目にして、騎士は開いた口が塞がらない様子で仰天し、やがて悟ったようにガックリと肩を落としうなだれた。
「……くっ。……5万円で買い取ってくれ」
「ま、こっちの世界にエルフィン出身の人も結構住んでますからね。生活が落ち着いたら、いつでも買い戻しにきてくださいよ」
騎士は未練がましそうに剣を見つめながらも、ガシャガシャと重い音を立てて鎧を脱ぎ、カウンターの上に置いた。
騎士の名前と出身を書いた買取書類を仁志から渡されると指で拇印をし、5万円を受け取った。
「あ、それと。そのままの格好で外に出たらまずいんで。そこの段ボールに入ってる古着から、好きなの持ってってください。買取のサービスです」
「……かたじけない」
騎士は言われるがまま、段ボール箱から選んだヨレヨレのTシャツと、ダボついたスウェットズボンに着替えるとトボトボと店を出て行った。
「毎度ありー」
ガラガラと引き戸が閉まり、店に再び静寂が戻る。
そして、仁志は買い取った宝剣と鎧を適当にカゴに入れると、再び椅子に深々と腰掛け、タバコに火をつけた。




