第17話 この店のことはよく分からん
「よーし、何とか2000円貯まったから、今日は『ただの』に行くぞー!」
常連客の魔導師マーニアが自室の床に複雑な魔法陣を描き、長々と呪文を詠唱すると、魔法陣の上に古臭い木の引き戸が現れた。
「今日の1000円均一ワゴンには、どんなお宝があるかなー」
マーニアが鼻歌を歌いながら引き戸を開けると——
「いらっしゃい!!」
店内から大声が返ってきた。
「おわっ!? な、なんですか急に大声出して仁志さん……って、誰ですか!?」
マーニアが驚いて目を見開くと、カウンターの中にいたのは仁志ではなく、派手なアロハシャツを着た見知らぬ老人が立っていた。
「わはは! わしは仁志の父親の平治だ! 仁志のやつ、店を継いでから遠出してないらしくてな。家族で温泉旅行に行かせて、今日は久々にわしが代わりに店番をしておるんじゃ!」
平治が腰に手を置きながら豪快に笑う。
「そうなんですか……。仁志さんのお父さんですか……」
マーニアは仁志の気怠げな雰囲気とは対極にある、平治の放つ謎の威圧感に気圧されて思わず後ずさりした。
「仁志の名を知っとるということは、あんた、よくこの店に来とるのかい?」
「ええ、まあ。仁志さんには『安物しか買わない』とか『長居して邪魔だ』っていつも嫌がられてますけどね……。地下の倉庫も見せてくれないですし……」
マーニアが肩を落としていじけた。
「なんだ、馴染みの客に対してつれない奴だな仁志は。あんた地下が見たいのか? ならわしが見せてやろうか?」
「えっ!? 本当ですか!? やったー! ついに地下倉庫に眠る遺物が見られるぞー!」
マーニアがパッと表情を輝かせた。
「よし、この本棚の裏に地下へ通じるエレベーターがあるんじゃ」
平治が年季の入った本棚に向かって手をかざした。
……が、本棚は動く気配がない。
「……あ。駄目じゃな、こりゃ。店自体があんたを地下に行かせる気がないようじゃ」
「えぇー!? 毎回ちゃんと買い物してるのに、なんで店にまで嫌がられるんですか!? って言うか、なんでお店に意思みたいなのがあるんですか!?」
「わはは! わしにもこの店のことはよく分からん!」
平治が豪快に笑い飛ばす。
「はぁ……。しょうがない、今日もおとなしく1000円均一のワゴンでも見ますかね……」
項垂れながらワゴンの前へと向かおうとするマーニアの背中に、平治が「待ちな」と声をかけた。
「まあ、期待を持たせたお詫びに、わしからいいものをやろうか」
「いいもの……? ほしいです!」
マーニアがくるりと振り向き、元気に答える。
平治はポケットの中にゴソゴソと手を突っ込むと、鈍い赤黒い光を放つ手のひら大の結晶を取り出した。
「うわ!? ものすごく純度の高い魔石じゃないですか、これ!」
マーニアはメガネの位置を直しながら、目を見開いてまじまじと魔石を見つめた。
「今、わしは魔界に住んでおってな。そこらでゴロゴロ取れるんじゃよ」
「も、貰っちゃっていいんですか!? 元の世界ではめちゃめちゃ貴重なものですよ?!」
「魔界じゃただの生活用品として使っとるし、これは店の売り物じゃなくてわしの私物だからな。代金はいらん、持って帰ってくれ」
「やったー! 予算も浮いたし、これで帰ったら魔法の実験が気兼ねなくできるぞ! 平治さん、ありがとうございます!」
マーニアが深々と頭を下げてお礼を言った。
「まあ、懲りずにこれからもこの店と仁志をよろしくな!」
「はい、平治さん! 今日も店に少しでも貢献できるように、何か買って帰りますね!」
◇
それから2時間後。
マーニアは1000円均一のワゴンを隅から隅まで吟味し終えた後、そのまま魔術書コーナーに移動して熱心に立ち読みを続けていた。
「へぇー……。別の世界では魔力の構成と展開式がこんなに違うのか……ブツブツ」
「……こりゃあ、仁志も店も、地下を見せたくないわけだな……」
カウンターでそれを見つめながら、平治は苦笑いし、お茶を一口啜った。




