第16話 動かなくなるまで、家で使ってやったらどうだい?
「朝子さん……親父から聞いたんだけど、おふくろ、生きてるんだとさ……」
仁志は地下の四次元倉庫の奥深くに、ひっそりと置かれている一体のメイド型ロボットの前で、煙草をふかしながら話しかけていた。
そのメイド型ロボット『朝子』は、幼い頃、母親に代わって仁志の身の回りの世話をしてくれた存在だった。
だが、仁志が10歳になった年に急に動かなくなり、幼い仁志は何日も泣いていた。
店を継いでからは、四次元倉庫にある他のロボットのパーツを流用してみたり、店にやってきた未来の技術者やアンドロイドの客に診てもらったりもしたが、動くことはなかった。
「……また来るよ。朝子さん」
仁志は優しく朝子の肩をポンポンと叩くと、寂しげに背中をまるめながら店へと戻った。
カウンターに戻ると、ちょうどガラガラと入口の引き戸が開いて客が入ってきた。
「……いらっしゃい」
入ってきたのは、ピッチリとした宇宙服を着た男と、顔は違うが、朝子とまったく同じ規格で作られたメイド型ロボットだった。
「すみません、この家事手伝いロボットを売りたいんだけど……買い取ってもらえますか?」
客はカウンターに立ち、申し訳なさそうに切り出した。
「朝子と同じ型か……。ちなみに、どういった理由で手放すんだい?」
「最新型のAI家事ロボットに買い換えようと思って専門店に持って行ったんだけど、型が古すぎてどこも引き取ってくれなくてね。処分するしかないかと思ってたら、『捨てるのは可哀想だ』って子供が泣き出しちゃって……ここなら何でも買い取ってくれるって噂で聞いて」
連れてこられたロボットは何も言わず、静かに虚空を見つめている。
「……何か、動作の不具合でもあるのかい?」
「不具合ってほどじゃないですけど、長年使ってるから、たまに動きや反応が遅いかなってくらいで」
仁志はロボットをチラリと見た後、客の目をじっと見つめた。
「ならさ、うちで買い取っても二束三文にしかならないよ。だったら、動かなくなるまで、家で使ってやったらどうだい? 最新型を買っても、家に2台あって困るもんでもないだろ」
「うーん……たしかに、子供が生まれる前から使ってるし、飼ってる犬も懐いてるしな……」
客は仁志の言葉を聞き少し考え込んだ後、ロボットの背中を撫でて微笑んだ。
「よし、ちょっと場所は取るけど、動かなくなるまで、一緒に過ごすことにするよ。……帰るぞ、エリナ」
客が出口へ向かって歩き出すと、エリナと呼ばれたロボットは一瞬だけ足を止め、カウンターの仁志に向かってペコリとお辞儀をした。
そして、どこか嬉しそうに客の後を追って店を出て行った。
「毎度ありー」
仁志は店から出る二人の後ろ姿を見送ると、微笑みながら煙草に火をつけた。




