第14話 うちの血筋のせいか知らんが見えてるよ
仁志がカウンターでスポーツ新聞を見ていると、スーッと引き戸をすり抜けて、一人の長髪の女性が入ってきた。
女性の体は仁志から見ると半透明で、裾の長い白い服の足下は透けて見えない。
女性はゆらゆらと体を少し浮かせながら、店内を興味深そうに見て回っている。
「いらっしゃい。今日は何かお探しで?」
「ひゃっ!?」
仁志がふいに声をかけたので、女性は肩を跳ね上がらせて驚いた。
「わ、私のこと……見えてるんですか!?」
「まあね。うちの血筋のせいか知らんが見えてるよ」
「へぇ、霊感が強いんですね……」
女性は自分が幽霊であることを特に隠す様子もなく、ほっとしたように胸を撫でおろした。
「それならちょっと相談なんですが……こちらに何か手頃な『人形』ってありますか?」
「人形?」
仁志は煙草を吸いながら首を傾げる。
「ええ。実は私、つい最近まで市松人形に取り憑いていたんですけどね。私がちょっと抜けている隙に、家の人に『人形供養』でお焚き上げされちゃったんです……。だから今、取り憑き先を探してて」
「ふーん。人形ならあっちの棚にあるよ」
仁志が顎でしゃくってみせた棚には、可愛らしいクマのぬいぐるみ、精巧なアニメのフィギュア、そしてクラシカルなフランス人形などが並んでいた。
「んーと……フィギュアも悪くないけど、やっぱりスタンダードにこのフランス人形かな! 」
女性は弾んだ声を上げると、フランス人形に向かってスーッと体を入れ始めた。
「おいおい、ちょっと待て。あんたがフランス人形に取り憑いたら、『呪いの人形』になるんじゃないか?」
仁志が制止する。
「呪いって言ってもたまに目が合ったら瞬きしたり、夜中に少し置き場所が変わってたり、髪が少し伸びるくらいですよ」
仁志がそれを聞くとメモを取りはじめた。
「たまに動く……、髪が伸びるっと……。よし、取り憑いていいぞ」
「ありがとうございます!」
女性は嬉しそうに声を響かせると、スーッとフランス人形の中へ完全に入り込んでいった。
すると、それまで無機質だったフランス人形の瞳に生気が宿り、仁志に向かって小さく首を傾げてみせた。
仁志は棚からそのフランス人形を取り出すと、
『呪いのフランス人形 たまに動いたり、髪が伸びたりします。 8,000円』と書いたポップを人形の足元に貼ると、『呪物コーナー』の棚へと静かに置いた。




