第12話 遠慮しないでじっくり、見ていってくれ
「毎度あり……」
仁志はカウンターに突っ伏しながら、去っていく客を心底疲れ切った顔で見送った。
その日は珍しく、朝から店が異常なほど忙しかった。
「客が被らないように店が調整してるとはいえ、来すぎだろ……。昼飯も食えやしねぇ……」
やって来る客はどれもこれも見事に世界観も属性もバラバラで、しかも一癖ある者ばかりだったため、対応するだけでも労力を削られた。
近所のじいさん『ビデオデッキが欲しいんじゃが、昔撮ったテープが出てきてなぁ』
未来人『脳波連動ゲームデバイス一式を売りたいんですけど、僕の時代の暗号通貨で買取りできます?』
異世界の剣士『うーむ……こっちは柄のグリップが固いな。かと言ってこっちは刃に付与されてる属性がな……』
ロボット『バッテリーヲ クダサイ ハヤク!』
普段なら一日に3組も来れば「今日は客が多いな」と思うレベルなのに、今日に至ってはまだ昼過ぎだというのに、すでに10組もの客がやってきていた。
「普通のリサイクルショップなら客が来るのは大繁盛で万々歳なんだろうが、ここは『ただの』だぞ……! なんで今日に限って、うちに来れるやつがこんなに多いんだよ……」
仁志がカウンターに突っ伏したままブツブツと恨み節を呟いていると、ガラッと引き戸が開く音が店内に響いた。
「……!」
仁志がおそるおそる顔を上げると——そこに立っていたのは、見慣れた青いローブに丸メガネの常連客、魔導師のマーニアだった。
いつもなら「またアイツか……」と露骨に嫌そうな顔をする場面だが、マーニアの姿を見た瞬間、仁志の表情がパッと花が咲いたように輝いた。
「おおお! よく来たな、マーニア!!」
仁志は勢いよく立ち上がると、満面の笑みでマーニアを迎えた。
そのあまりの異常なテンションに、マーニアは「ヒッ!?」と小さく悲鳴を上げて思わず後ずさりした。
「な、なんですか一体!? 僕の顔を見るなり、いつもなら露骨に嫌そうな顔をするくせに……! 気味が悪いですよ!」
マーニアが怪訝そうに腕を組み、メガネの奥の目を細めて警戒する。
「いいからいいから! ほら、お前が大好きな1000円均一のワゴンコーナー、今日は特別に全品、半額の500円にしてやるから! 遠慮しないでじっくり、見ていってくれ!」
「えっ!? 全品500円!?」
仁志はマーニアの肩を親しげに抱きかかえると、グイグイと背中を押して店の隅にあるワゴンへと案内した。
「ほ、本当ですか!? やったー! 仁志さん、今日は太っ腹ですね!」
マーニアは目をキラキラと輝かせながらワゴンの中身を漁り始めた。
「これなんか元の世界なら……っ! ああ、でもこっちの護符も捨てがたい……!」
ワゴンを漁るマーニアの背中を見つめながら、仁志はふぅと息を吐き、カウンターの椅子に腰掛けた。
(これで2時間は他の客は店に入れんだろ……。)
仁志は煙草に火をつけると、煙を味わうように吸い込み、ゆっくりと天井に向けて吐き出した。




