40 解決はあっさりでした。
いよいよ祓いパートです。
通されたのは離れの中央にして最奥にある寝室だ。作りは豪華なのだが、そこに至るまでの扉も廊下にも霊障が発生していて、非常に気味が悪い。防犯のためなんだろうけど、重苦しい扉がいくつもあるのが雰囲気をさらに悪くしている。
『察するに城でなにかあった時の避難所なのじゃろうな。あるいは手に負えないタイプの貴族を軟禁しておくための場所じゃな。どんよりと重い空気に高い密閉度は元々の構造じゃ。そこに魔法を使った防衛設備まであるから、気密性が恐ろしく高い、持ち込めず、逃げ出せずの要塞じゃな。』
と、エミリーが解説していたが、そんなことを言われなくても空気の悪さはわかる。なんなら、最後の扉の向こうは、素人にも見えるほど濃さを増した真っ黒な鎖は、素人でも目に見えるだろう。
まるで蛇のようにうごめく呪いは、部屋の中央にあるベットの周りをぐるりと取り囲みいばらのように覆い尽くしていた。うごめく隙間の向こうからはすすり泣く男の声。おそらくはベットそのものになんらかの守りがあるのだろうが、呪いを祓うほどの力はなく、まるで檻のような景色となっているのだろう。
『これはまた、見事に呪われておるの―。』
「すごい・・・。」
ロッド様や弟さんの状態を見てことがある俺達には、それが異常であると同時に、まだ生命に関わらない状況とわかり、少しだけ、リアクションをする程度余裕があった。慣れともいえる。一方でその痛々しい光景を前にダーパル様や護衛と思われる兵士たちの顔は暗く、言葉もない。
「これはいつからなんですか?」
「兆候は数か月前からあった。そのときは王城の魔法使いたちが対応できていたのだが、ここ1週間はあのような状態でな、無理やり物を通してやり取りはできているところだ。」
『臭そうじゃのー。』
そういうこと言わない。意識したら匂いが漂ってきそうじゃないか。
思わず顔をしかめると、その様子に不安になったダーパル様がおずおずと尋ねてきた。
「ロッドからの情報では、スカル殿ならばこの状況をどうにかできると。」
「うーん、ちょっと待ってくださいねー。」
これは中々に骨が折れそうだ。
ダーパル様に答えつつ、俺は目を凝らして呪いを見極めるべく意識を集中させた。霊障の濃さだけ見れば過去一の存在感で、初めて会った時のエミリー以上の圧力を感じる。いくつもの霊が折り重なり、無理やり圧縮された不快感と禍々しさは見ているだけで精神を消耗する気がする。これにさらされていながら平静を装っていたロッド様ってやっぱりすごかったんだなーとか関係ないことを思いつつ、俺はある事実に気づく。
「一つじゃないな。」
真っ黒な鎖は一つの大きな塊のようで、そうじゃなかった。全てがつながっているのではなく、その動きにはいくつかパターンが見えた。数多くの霊を祓ってきた経験からくる勘のようなものだが、この感覚は間違いない。
「過去にリムーブを試したことはー?」
「ある、王城問わずリムーブを使える魔法使いは片っ端から声をかけたが・・・。」
「でしょうねー。」
この現象を一つの結果として考えていれば意味がない。穴がいくつもある風呂桶の一部を塞いでも水漏れが収まらないのと同じだ。一時的に症状は緩和しても残った呪いがまた穴をあけて、元通り。完全に解決するには、一度にすべてを祓わないといけない。
『一つじゃない? ふむ、なるほど、確かにいくつか呪いの気配を感じるな3つか、4つ?』
「5つだなー。」
俺の言葉に目ざとく反応したエミリーの言葉に反応した独り言。あると思って探せばなんてことはない。檻のように塊うごめく呪いの鎖は5種類存在し、それぞれがベットを取り囲むように5か所から生えてきている。
「いきます、しばし静かにしててくださいねー。」
檻の中にも聞こえるように声を張ってから、足をわずかに開いて踏ん張りが効くようにする。別にその必要はないが、集中するときは姿勢を安定させたい。
一つ、二つ、最初は簡単に鎖を捉えることができた。だが、その時点で他の呪いがぶつかって魔力が散らされてしまう。祓いの力にぶつかるので、呪いそのものも削られて、わずかに鎖の密度が下がるが、それもすぐに戻ってしまう。
「なるほどー。」
どうやら5本の鎖はお互いをかばい合い、外敵に対処し、ここまで力を蓄えてきたのだろう。その源がどこからくるのか考えると、背筋が寒くなるが、今は考えない。
「小賢しいねー。」
今考えるべきは鎖の厄介さと忌々しさだ。恐らくはこうなるまでに、王城の魔法使いや魔道具などによって防がれ守れていたからこそ、中途半端に残った呪いやその残滓が残り続け知恵をつけた。あるいはそういう性質を持たせられるのかもしれない。
でも、俺はもっと性質の悪い悪霊を知っている。リムーブを避けるし、心の隙をついて生き残りを図る。それと比べれば虫けら程度の浅知恵でしかない。
5つ。今度はすべての鎖を丸ごと包み込みように魔力を動かし、暴れる隙も与えずに一気に締め上げる。共存していても、己がかわいいのか、鎖たちは苦しそうに暴れるが身体に触れているわけではないので遠慮はいらない。全力かつ繊細にすばやく呪いをここに包み込めば、もはや動けない。
『なんどまあ、力づくじゃのー。』
なんとでも言えばいい。だが、リムーブしかできない俺にとって、これは飯のタネ。祓い仕事で失敗なんてことはプライドが許さない。無理でもきつくてもやり切るにだけだ。
「リムーブ。」
すべてを包み込み、過剰と思えるほどの力を注ぎこみ、一気に締め上げ、押しつぶす。祓うのではなく押しつぶしてすり潰すための魔法。霊にしか通用しないのが残念だと思えるぐらい力強く、美しい魔法だと思う。
「よし。」
『ちょ、おまえやめるのじゃー。』
確かな手ごたえを感じたあとは、建物中にリムーブをまき散らす。建物に残っているわずかな残滓、どれが元凶か分からないが、すべて祓えば問題ないだろう。
「な、何を。」
「まとめて祓う必要がありましたー。」
そこそこ広い建物だったが、川のときよりはマシだ。今回は魔力に充分な余裕を持たせて解決できたんじゃないだろうか?
『お主・・・油断もすきもないの。』
「ちっ。」
生き残ったか。この環境での不意打ちならワンチャン祓えるかとも思ったが、エミリーはピンピンしていた。やっぱりこの悪霊に比べれば大したことない呪いだったな。
スカル 「いい仕事が出来て満足」
エミリー『証拠も根拠もまとめて吹っ飛ばしたがな。」
次回、やんごとなき人とご対面




