38 大事なのは立場と段取り
王都につきました。
馬車を走らせること一日半、街道を爆速して恐怖をばらまいた俺たちの前に、白く荘厳な壁が見えてきた。歴戦の戦いの傷跡が残るノースピートンや、岩肌を加工したザパートオチアスと違い、丹念に磨かれた壁面は太陽の光を反射して光り輝いていた。
『白銀の都。相変わらず派手じゃのー。』
「すごい、もうセンタまでつくなんて。」
「うん、体験すると信じれないですよねー。」
前回は眠っている間に旅が終わっていたタチアナさんだったが、今回は交代で御者をしていたので、スピード感と快適感を知っているだけに驚きがすごかったようだ。
体感的な距離は、サウスピートンからザパートオチアスの倍ぐらいの距離だが、実際はどうなんだろうか?
『うむ、それくらいじゃな。ザパートオチアスを加えた北西部が王国の4分1ほどがロッド卿の支配領域で、王国を4分割して支配する4大貴族と王都を支配する王族と言う感じに支配が分かれておる。それを横断したきたのだから、距離的にはそのぐらいじゃ。』
「なるほどー。意外と近いねー。」
『いやいや、これほどの速度で移動できるのは、お主の規格外の魔力とわっちの魔力技術があってこそじゃ。おいそれと旅ができる距離ではないからな。』
それはそうだ、こんなにサクサクと移動ができる時点でおかしいのはわかる。基本的には座っているだけの快適な旅だったので、イマイチ距離感がつかめない。寝て起きたらついたというイメージがある。
それは別として、初めて訪れたセンタは立派な都市だ。
キラキラと輝く城壁と整備された石畳の道。離れていても伝わってくる人々の喧噪と長い馬車の列。大陸最大の都市にして王都は伊達ではないということだろう。近づくにつれて輪郭がはっきりしてくると、城壁の向こうには尖った尖塔が集まった王城まで見えてくる。その美しい光景を見るとため息が漏れてくる。
「で、このまま近づいて大丈夫なんですかー。」
「え、ええっと。父から魔道具で連絡はいっているとのことでしたので。」
「なるほどー。」
事前に連絡済みというのはありがたい。魔法とは便利ものだ。そういえば大陸と端と端でも会話ができる魔道具があるとか聞いたことがあるけど、そんなことは可能なんだろうか。
『うむ、古代魔道具の一種じゃな。対になったもの同士でしか会話ができんし消費する魔力が膨大じゃから、おいそれと使えるものじゃないが、貴族なら持っていても不思議ではないな。』
「はい、なんでも王族と4大貴族の間にある秘密の道具らしいです。」
「へーー。」
ちなみにこの世界の情報伝達といえば、伝書鳥や手紙などが一般的だ。前者は専門の業者がいるらしいが、非情に高価で貴族向け、一般人は行商人や傭兵などに手紙を託すのが一般的だ。そもそもコミュニティが狭いので、遠方に手紙をだすなんてことがほとんどない。
旅人とは一期一会なんてことも多いし、初見の使者なんてものも多い。
『だからこそ、貴族たちは、家を表す紋章をもっておるし、その製作に金を駆ける。それらを鑑定する専門の紋章官が存在するぐらいじゃぞ。』
「なるほど、だから紋章を勝手に作ると捕まるのかー。」
傭兵は所属する街ごとに紋章をもらう。身分証ももらえるが、いちいち確認するのも手間なので、その紋章を見せて関所を通るなんてこともあった。
『なお、貴族の紋章には特殊な仕組みが仕込まれており、ただの転写はすぐにばれるようになっておる。おかげで紋章を見せることであらゆる手続きを省くことも可能じゃな。』
「私も、今回の一件でスカルさんをサポートするために、父から代紋を預かっています。おいそれとだせるものではないんですけど。」
まあ、使えるものは使わないと使わないと損だよねー。とか思っていつつ、俺たちは馬車を減速させ王城へと向かうのだった。
「これは、こちらをお通りください。」
「ありがとうございます。」
事前に通達がされていたのか、タチアナさんが家の紋章を見せると、関門で止められることもなくスムーズに通された。気になるのは一般的な正門ではなく、壁をそって裏門へと誘導される。その動きを咎められることはないが、どことなく誰かに見られているような気配を感じる。
『うむ、見られておるのう。壁の上と隙間から直接。あとはいくつかの探査魔法がかけられておる。』
「それって大丈夫なのー?」
『くくく、本気で隠れたわっちを補足できる魔法使いはこの時代におらんよ。そこにいると分かっていないならただの馬車にしかみえないぞ。まあ、貴族の馬車のくせに違和感がなさすぎることを疑う者はでるかもしれんが、基本的には無害と思うじゃろ。』
信用ならない。エミリーの知識や能力から考えれば隠れることは可能なのかもしれない。だが、こいつの性格的にうっかりな展開がありそうな気がする。あとは俺やタチアナさんの反応を見て何かを勘ぐられるとか。どのみちトラブルは避けられない気がする。
『そのときは、そのときじゃろ。』
「それはそうなんだけどねー。」
ここまで来て引き返す気はない。仕事があるなら仕事をするだけだ。
そう思っていても、なんともむずがゆい気配に、若干の後悔を感じずにはいられなかった。
馬車の速度が一般的に時速20キロ。
馬単体なら時速50キロ。それを1日走り続けたので1000キロぐらい?
今回は、東京ー福岡間ぐらいの距離を1日で駆け抜けたわけです。




