37 王都は遠くて近い。
次の旅の目的はー。
つつがなく仕事を終えた俺たちは、その日の午後には、オフツァーを出発することになった。
街の現状からすぐの仕入れは難しく、お土産用に保管されていたチーズとバターを分けてもらうだけだったが、これはこれでなかなか美味しいので満足しておく。絶対また来ようと思うぐらいには美味だった。
「で、次はどこに行くんですかー。」
「ええっと、実は、王都へ向かうことになりまして。」
「はいー?」
馬車を運転するタチアナさんに、次の目的地を訪ねるととんでもない答えが返ってきた。最初の説明では王都を訪れることも言われていたが、もっと先の話だったような。
「思った以上に根が深いようでして、それとどうにも王城の一見は緊急らしくて。」
「はあ、王城。」
『かかか、故郷を飛び出して一月と経たずして王城とは、お主は面白いのう。ぶはー。』
ゲラゲラと楽しそうに笑うエミリーにリムーブを叩き込んで鬱憤を晴らしと心の平穏を図って落ち着いたのち。俺はタチアナさんに先を促す。
「実は、王都とその周辺では霊がでるって噂程度だったんですけど、ターボさんとその仲間から聞き出した中に、王都に住むやんごとなき御方が、父と同じような症状で寝込んでいるという情報がありまして。」
「なるほどー、それは急がないとですねー。」
命は平等じゃない。地位や立場のある人間の命を優先して動く必要があるときはある。王都までにあった数件の案件は無視して、全力で向かってほしいとのことだった。
「すいません、ちゃんと説明しておくべきでした。」
「いえいえー。」
依頼は依頼だ。むしろ、ここに至っても、相手の素性をぼやかしてくれているあたり、ロッド様やタチアナさんが俺を気遣っていることは伝わってくる。俺は遭遇した霊障を祓うだけ、難しいことは偉い人達に任せるし、霊障の説明もエミリー様が勝手にしてくれるだろう。
だが、とも思う。
「しかし、王城ともなれば優秀な魔法使いがいそうなものですけどねー。」
『いやいや、お主ほどの使い手はそうそうおらんぞ。それにわっちもおる。そこらの魔法使いたちでも霊や呪いを祓うことはできるかもしれんが、この大陸でわっちらほど「呪い」に詳しく対処できる存在はおらんぞ。』
「そうなのー?」
「そうですよ、少なくとも私や父の知る限り、スカルさんクラスの魔法を使える人を見たことがありません。」
「まあ、これが取り柄なので―。」
リムーブは魔法使いの奥義と言われている高等技術だっけ?エミリーが言っているだけで信じてはいない。他の魔法使いも使えるは使えたし、他と違って霊を祓うしかできないリムーブは北部では隠した扱いだった。リムーブしかできず、祓い屋を専門としている傭兵なんて俺ぐらいだと思う。だが、目の前の怨霊を祓いきれない程度の腕前なんだけどねー。
『ふは、不意打ちはやめろ、まじで心臓に悪い。』
「スカルさん、やめてください。今はエミリーさんの知恵が頼りなんです。」
『そうじゃそうじゃ。わっちは賢者。知恵を借りたいと思う人達のことも考えんかー。」
「えーー。」
何気に社会的地位まで得ようとしてないか。うん、まて。
「それよかー、お前って王城へ行って大丈夫なん?」
『うん、なぜじゃ?』
「嘆きのエミリー。」
『「あっ。」』
気づいてなかったんかい。
「変死関係は、誤解だとしても、王都で大暴れしたのは事実なんだろ。そんな化け物が凱旋ってどんな嫌がらせって話になるんじゃないのかー。」
「はわわ、どうしましょう。それこそ王都の魔法使いなら、エミリーさんに気づくかもしれません。」
「ですよねー。」
ロッド様のことが、俺たちの情報はぼかして報告しているか、まだ報告していないということも考えられる。だが、このまま王城へ向かった場合、タチアナさんが天然で何かをやからしたり、エミリーの姿を見ただれかがパニックになる可能性だってある。
『いやいや、さすがにわっちも空気を読むよ。お主ら以外に見られないように姿を隠しておくぞ。かの一件でわっちも反省したからな、信用できる相手にしか姿を見せないようにはしておる。』
「言いながら、ロッド様たちには容易く見つかってたじゃん。やだぞ、王城についたら衛兵に囲まれましたなんて展開。」
『ぐぬ、そのときはそのとき、無害な霊であることを証明すればよかろう。」
「いや、俺が王城の人間なら問答無用でぶっとばすぞー。」
霊即退治。これは傭兵の基本である。むしろロッド様たちが穏当に対応してくれたと思う。ロッド様から聞いた昔話が事実だとしたら、王城や王都がその対策をしていないわけがない。うっかり探知されて怨敵扱いとか勘弁なのだが・・・。
「だ、大丈夫、大丈夫です。きっと父がそれとなく連絡はしてくれるはずですし、紹介状を見せれば謁見までは問題なくできるはずです。」
「でも、そのやんごとなき人って容態が良くないんですよね、そうなると向こうも警戒しているんじゃー。」
「うう、それはありえそうです。」
困った顔になるタチアナさんに、不服そうな顔をするエミリー。二人とも認識が甘かったようだ。まあ、それでも行かないという選択肢はないんだけどね。
「まあ、そのときはそのときですねー。とりあえず、何かあってもいいように備えだけはしておきましょうー。」
といっても、エミリーが余計な事をしないように釘をさしておくことと、万が一のときに逃げられるようにアレコレと仕込んでおくぐらいだけど。
「途中の街で買い出しをしたいですねー。」
「そうですか?」
幸い、アイテムボックスに入れておけば困らない。保存食や、便利な道具の心当たりもある。何かあった場合は、エミリーの能力をフル活用してタチアナさんを逃がして逃亡かなー。
『備えるのはいいが、わっちを信用してくれ。わっちかてトラブルはごめんじゃから。それなりの工夫は考えておる。お主らがばらさない限りは、わっちの存在もばれないと約束するぞ。』
「お願いします。」
「信用ならないなー。」
エミリーが悪い存在じゃないというのはなんとなくわかる。タチアナさんが信用しているのもポイントが高い。
一方で、こいつの認識のずれがトラブルを引き起こす可能性がまったく否定できない。
『それよりも急ぐのではないのか、あの街にまで情報が入ってきているとなると、そのやんごとなき人というのの容態は一刻を争う。そう言うことなんじゃろ。』
「それはそうですね。ダーポたちの情報が確かなら、父と同じかそれ以上かと。」
「それは急がないとですねー。」
ロッド様の状態はかなり危うかった。それ以上となれば弟君の状態、下手すると裏切った執事さんみたいになっているかもしれない。ここから急行しても間に合わない可能性もある。
普通ならば・・・。
『なれば、わっちらの出番じゃのー。見るにこちらの会話も理解おるようじゃし。』
「ひひーーん。」
任せろとばかりにお馬さん達も答える。動物さんって賢いなー。そして、周囲に他の旅人は見られない。となると。
「お願いしてもいいですか?」
「ほかに選択肢もなさそうですねー。」
『任せろ。王都までなら二日と掛からんぞ。明日の日暮れまでにはついてみせようて。』
「目立ちたくないんだけどなー。」
『それで、間に合わなかったらそれこそじゃ。なーに、辺境伯の秘蔵の魔道具とでも言い訳しておけばいい。道中にいい感じの言い訳を考えようぞ。』
これである。しかし、ダラダラと旅をするよりは、あの快適に速い移動が魅力的なことも事実だ。
「ほどほどにねー。」
『心得ておる。いくぞ、馬ども、風になりお主らの主人を目的地へと送り届けるのじゃ。」
「ひひーーん。」
了承とともに、持っていかれる大量の魔力、そして加速する馬車。デコボコの街道を走っているはずなのに、振動がなくなり、風の影響も消える。
うん、これは快適だ。癖になったら戻れなくなりそう。
「まあ、今更だなー。」
きっとどうにかなるだろう。流れに流れてどこへいくのか?
見えない行く末に少しだけワクワクしている俺がいるのもまた事実だった。
スカル 「先行きが不安だ。」
エミリー『まあ、なんとなるじゃろ。わっちがおるし。』
なんだかんだ、エミリーを利用することにためらいがないスカルさんもちゃっかりしている。




