35 動物さん達は素直でした。
翌朝の話。
動物に霊感はあるのか?言葉が通じない以上、それを確かめる術はない。エミリーのような超例外を除けば、霊と動物が関わるなんてことがそもそもない。
ただ、動物は人間よりも環境の変化には敏感だ。わずかな違和感に警戒心を強め、それが戻るとすぐに警戒を緩める。
「なんということだ、羊たちが自分たちで搾乳にくるなんて。」
「ヤギもですわ、あなた。」
なんやかんやあった翌朝、眠れぬ夜を開けたデニスさんたち夫妻を待っていたのは、はよしろとばかりにお行儀よく並ぶ家畜の群れだった。毛刈り待ちだったり、搾乳待ちだったりと様々だが彼らは列をなして飼い主たちの前に現れた。さらに、これは後になってわかったことだが、これは街中の酪農家の前で起こっていたらしい。食肉用の豚や鶏ですらそれだったというのだから驚きだ。
『彼らかて、この快適で安全な場所が与えられていることは理解しているのじゃろうな。未知の脅威に怯えて、群れの安全を最優先に動いていた一方で、自分たちの庇護のために対価を差し出さねば、この街そのものがもたないこともわかっていたのじゃ。』
「なるほどー?」
狩るか狩られるかな北部の習慣で育ってきた俺には、いまいち実感の分からない話だ。だが、昨晩、羊飼いを祓い、気持ちの悪い人形を回収したのは正解だったらしい。詳しい話はデニスさんたちが落ち着いてからにしよう。窓からその様子を見守っていた俺はそう判断して、二度寝を決めこんだ。
と思っていたが、雇い主への報告は大事だ。昼頃まで寝なおした俺は、まずはタチアナさんに報告することにした。
「なるほど、ヤギの頭をした羊飼いの霊と、それそっくりな人形ですか。見せてもらっても?」
『ほい、もはや無害じゃから、触っても大丈夫じゃぞ。』
宿の部屋に招かれ、昨日のあらましを話し、エミリーに例の人形をテーブルに出させる。明るい場所で改めてみると何ともリアルで不気味な物だった。土で汚れているが、服の生地はしっかりとしたものだし、ヤギの骨の質感は本物の骨のそれだった。
「不気味だねー。」
「ですねー。」
しげしげと観察し、まず漏れたのはそんな感想。そして。
「これって、オフツァーに伝わる「持ち去り悪魔」かもしれません。」
「うんー?」
「ええっと、そういうおとぎ話があるんです。家畜をいじめたり、仕事をさぼったりするとヤギの悪魔に連れ去られるぞーって。」
『うむ、一種の教訓話か。あれじゃ、北部の魔物のようなものじゃ。』
「ああ、なるほど。」
悪い子は○○にという話はどこにでもあるんだなー。北部では魔物に攫われ、傭兵に助けられるまではセットだったけど。
「詳しくは知らないんですけど。年に一度、そういうお祭りがあるそうです。「持ち去り悪魔」を追い払うっていう芝居をした後で、こういう人形を燃やして厄を祓うらしいです。」
「詳しいですねー。」
「ええっと、まあ、有名なイベントですし、商売の付き合いもありますから。あっちなみにお祭りは数か月前にあったはずです。」
「うーん、そうなると祭りの人形が残っていたとは思えないですねー。」
この人形の状態は。数か月、土の中にあったそれではない。なんならここ数日の可能性かもしれない。
『うーむ、おそらくは、その祭りやおとぎ話をカモフラージュにして呪いを形作ったのじゃろうな。今までの話を聞く限りでは、近づくだけで意識を奪われる恐ろしい存在じゃったが、万が一にも証拠が見つかっても、悪魔に罪を着せて言い逃れるつもりだったのかもしれん。』
「本物ってことはー?」
『ありえんな。少なくとものその人形は作り物じゃ。ヤギの頭の魔物がいないとも限らないが、魔物がこんな迂遠な手を使うとは思えん。昨日の状態を見る限り、アレは呪いの類じゃ。』
もう呪いってなんでもありだなー。リムーブで解決できるから楽でいいけど。
「となると、どうしましょう。原因も含めて報告したいのですが。」
「おとぎ話云々のあたりは、相手を選んだ方がいいでしょうねー。」
今回の一件が「呪い」である以上、犯人は隣国のやつらだろう。その手口は説明しても理解してもらえるかは怪しい。その上で、対抗できるのは俺たちだけとなると、おいそれと情報は広められない。
かといって、羊飼いの霊が亡くなった事実は伝えるべき?
どうしたものかと考えているとエミリーが、けらけらと笑い出した。
『ははは、そこまで深く考える必要はあるまいて。』
「うんー。」「はい?」
『娘っ子は現場におらんかったから、気づかなかったかもしれんが、主よ、もう少し呪いというものを理解したほうがよいぞ。まて、ちゃんと説明するからそれをひっこめろ。』
何が言いたい。と思ったが。俺は1つピンときた。
「呪いは還るかー」
「あっ。」
そういえばと思い出すのは、辺境伯家で起こった騒動だ。追い込んだ結果、呪いは。元凶へと還っていたな。
『そうじゃ、呪いは持ち主に還る。本来なら祓う過程でその力を大部分を失うから、呪った本人が実害をこうむることはない。じゃが、主の祓い方は絶妙じゃ。今回も・・・。』
「なるほどー。なら街中でそれっぽい人を探せば。」
『ふふふ、もはや、それも必要あるまいて。これだけの悪さをしていた黒幕が、お主らの存在に気づかないわけがない。その上で、昨晩から今朝にかけての変化。そろそろ。』
そううまくいくだろうか?
コンコン
「失礼します。タチアナさま、面会を求める人がきているのですが。」
そんなことある?
スカル 「動物は正直。」
エミリー『そういう生き方をしているのが、ここの家畜なんじゃろ?」
タチアナ「蚊帳の外でちょっとさみしい。」
投降に間が空いて申し訳ない。




